この時代に剣客が現れて剣道部に入ってしまったよ。
その後の剣道場は凄惨だった。
又四郎は各下の剣士に対しても一切手を抜かない。
普通、わざと打たせたり、相手に自信を付けさせるために叱咤激励するものだが、又四郎はひたすら打ち据える。
しかも見た目15才の又四郎に滅多打ちにされる成人男性警官や、防具を纏わない又四郎に対して、かする事も出来ない警官達の苛立ちが爆発し、全員がムキになって掛かって行くも、誰も太刀打ち出来ないのであった。
警官の中には全国大会レベルの凄腕剣士も居たが、他の警官同様、プライドを引きちぎられる程の精神的なダメージと、肉体的な苦痛を味わっていた。
稽古の後、誰一人立ち上がる事が出来ない。
剣道場は静寂の中に荒い息切れが響く。
「千葉殿、今日は実に楽しかった。最近の鬱憤をすっかり晴らさせてもらった。」
「そ、そうですか・・・。宜しければ、ま、又おいでください。」
「ああ、必ず又来る。ふふふ。」
ニヤニヤと笑う又四郎。
「では、御免。」
道場を後にする又四郎。
「はて、ここは何処だ?」
思い返せば、忠明に連れて来られた場所だった。
「まあ、良いか。月も綺麗だ。のんびり歩いて帰るか。」
忠明の家など、場所も方角も解らないが、何とかなるだろうと又四郎は街を歩き出した。
焼き鳥の匂いやニンニクの香り。
街は様々な誘惑で溢れている。
酒が呑みたいと、又四郎は思った。
赤提灯が在るならば、酒も在るだろうと、中に入る。
「ダメダメ!未成年に呑ませられない!」
と、赤提灯の店には全て断られる。
なんたる事だ。見てくれはガキだが、酒だって誰にも負けぬのに。
又四郎はふてくされ、街を歩く。
飲み屋の呼び込みにすら無視され、コンビニにウンコ座りする若者に絡まれるが、瞬殺してしまう。
何処をどう歩いたのか、人通りの少ない、薄暗い夜道を歩いていた。
なんか、江戸っぽい闇だなと思う又四郎。
電柱の陰から女らしき人影が道に倒れてきた。
「だ、誰か助けてください。」
「ん、誰だお前は・・・。」
女の背中から大量の血が流れている。
女はそのまま動かなくなった。
又四郎の顔付きが変わる。
「刀傷・・・。女を背中から切るとは。ゲスが!」
又四郎は闇の中へ走って消えていく。