この時代に剣客が現れて剣道部に入ってしまったよ。
二人が帰った病室で、遙は一人考えていた。
通り魔に襲われたあの日、部活の元先輩に会っていた。
それは、部活で起きた事件について元先輩を説得する為だった。
話は数週間前に遡る。
「先輩!!やめてくださいそういう事!!」
遙は大声で抗議する。
「あんたは関係無いんだから、黙ってなさいよ!」
先輩の名前は保田奈美子(やすだなみこ)、威嚇するように遙に凄む。
遙の同級生を奈美子達は取り囲み、制裁を与えていた。
「なんでイジメみたいな事をやってるんですか!皆で寄ってたかって!」
「うるさいんだよ、あんた!」
竹刀が遙の顔を打つ。
「い、痛い!」
その声を無視して、同級生に制裁を続ける。
同級生は殴る蹴るの暴行を受け、ぐったりと倒れる。
「うはははは!ざまぁ〜。人の男にコクられて付き合うとか、マジうぜぇんだよ!ば〜か。」
奈美子はとどめに腹に蹴りを入れる。
「うぐっ・・・。」
同級生は呻いて動かなくなった。
それを見た遙の理性のタガが外れた。
「お前たち!!」
遙は竹刀を握り、上級生6人に向かい、立ち向かっていく。
気が付くと、遙は教師三人に取り押さえられて居た。
目の前には、上級生達と奈美子が気を失い、倒れていた。
そして、同級生も。
救急車が到着して、倒れていた全員が病院に運ばれた。
教師達は遙による暴力事件と思い、遙を詰問するが、一部始終を見ていた剣道部員達が理由を説明して、遙の嫌疑は晴れた。
しかし、流石に上級生を6人も病院送りにした事実は見過ごせないと、忠明も呼ばれて厳重注意になった。
忠明はむしろ遙を庇い、学校に抗議したが、上級生6人の親達の圧力に屈し、怪我をさせた事に対しては謝罪した。
だが、同級生の怪我は重く、上級生6人は退部になった。
学校に影響力を持つ保田の母親の一存で、退学を阻止し、立場の弱い同級生に対し、謝罪すらせず、退部した。
同級生は未だに入院生活を余儀無くされている。
遙は剣道部に戻ったが、上級生6人を病院送りにした事実を目撃していた部員達は、何処かよそよそしい。
同級生も、先輩に気を使い遙によそよそしい。
やがて遙は孤立気味になり、部活には行かなくなってしまった。
又四郎に会ったのは、そんな時だった。
又四郎に会って、自分の気持ちを取り戻した遙は、上級生の保田奈美子に会い、同級生に謝罪するように説得に行った。
結論から言えば、説得は失敗した。
「あのさ〜もうウチと関わんないでくれる〜。もう部活とか、関係ないしぃ〜。」
「奈美子先輩!怪我させたのは謝ります。ですがあの子にはあんな怪我をさせたんですから、謝ってください!」
「あんなになるまで、暴力を振るったんですから、謝罪してください!」
「うるさい!もう終わってんだからいいの!誰が謝るかつーの!!」
席を立つ奈美子。
「先輩!待ってください!」
店を出る奈美子。
席に座り、頭を抱える遙。
表通りから悲鳴が聞こえる。
何の騒ぎ?
遙は会計して店を出る。
道端に奈美子が倒れているのが見えた。
なに?何があったの?
慌てて、奈美子の元に駆け寄る。
「先輩!?どうしたんですか?」
「はぁはぁ・・・。痛い!背中が、い、いた・・い・・・。」
そのまま奈美子は動かなくなった。
遙は目を通りに向ける。
奇声を上げ、刀を振り回す男が居た。
次から次と女ばかりを襲っている。
遙は男目掛けて走り出した。
病室のベッドの上で、遙は考えていた。
いくら嫌な先輩でも、あんな殺され方はあんまりだった。
友人への謝罪も無いまま死んでしまった。
「ああ、剣道やりたいな〜。」
「又四郎、剣道やらないかな〜。」
遙はため息をついて、布団に潜り込む。