この時代に剣客が現れて剣道部に入ってしまったよ。
遙は朝早く起きて、3人分の弁当を作る。
兄、自分、又四郎。
又四郎は何故か食べ物に対して無頓着で、決まった時間に食事をする習慣が皆無だった。
初めは戸惑った遙だったが、最近は慣れてきて、お昼の弁当は遙が持ち、又四郎と食べるという習慣が、又四郎にも芽生えていた。
主に登下校は遙と一緒にする又四郎だが、たまに遙に用事などがある時は、ひたすら自分の教室の机に座り、又四郎は遙が来るのを待つという具合だった。
たまに、カナも一緒に帰る時も在るが、カナは部活に青春をかけているせいか、中々遙達と一緒に帰れる事は無かった。
あの、又四郎の教室であった事件も、遙は知らない。
昼飯を食べていた又四郎が突然立ち上がり、自分の教室に戻って行った。
又四郎は、「遙殿、カナ殿。少々野暮用が出来た。お二人は食事を続けると良い。」と、言い残し、屋上から消えてしまった。
その日の帰り道で、遙がお昼の事を又四郎に聞くと、「ああ、腹が少し痛くなったので、厠へ行っておりました。」と、聞いただけだった。
又四郎のクラスから、あの日の事件の話は一切漏れて来なかった。
それどころか、誰もあの時の話を口にするものは居なかった。
家に帰って忠明と遙と話をしても、又四郎は例のごとく、やれ何を言っているか解らぬだとか、学校のシステムそのものを否定したり、諸国を旅したいと言うばかりだった。
又四郎にやられた6人は、体調不良であの日から学校へは出てきていない。
委員長と平賀は、普通に又四郎に話し掛けてきたり、一緒に過ごしたりはするが、他のクラスメイトは必要な時以外は又四郎と話したりはしなかった。
ただ、澤部だけは又四郎にも色々と話し掛けたり、話題を振ったりしていた。
遙は、部活に復帰するため、又四郎に相談をした。
「ねぇ又四郎。私剣道部なんだけと、一緒に入らない?」
「剣道?ああ、千葉剣術の事か・・・。ううむ・・・。」
「私が部活をやったら、又四郎一人で帰らなきゃだよ。」
「ううむ。帰り道がよくわからんからな・・・。」
「でしょ!これはやっぱり又四郎も剣道部に入らなきゃだよ!」
「まあ、入る入らないは別として、見に行く次いでに素振りでも行うか。」
「よし!決まりね!明日ね!明日行くから!」
「ああ、解った。」
二人の会話を聞いていた忠明は、「又四郎。帰り道解らないならパトカーで迎えに行ってやるぞ〜。」と、笑いながら言う。
「もう、兄さん!!」
遙が怒る。
「ははは。冗談、冗談。いいねぇ〜青春だねぇ〜。」
「からかわないでよ!兄さん!」
顔を真っ赤にしながら遙は言う。
「でもな、遙。又四郎は強いぞ〜。内の師範がやられたんだぞ。
はたして、高校生が相手になるかどうか・・・。」
「お言葉だが忠明殿。弱ければ、強くすれば良い。それだけの事。自分より弱いなら、必死に食らい付いてくる精神を養わせなければ、ただ、弱いままだ。」
又四郎は平然と言ってのけた。
「おい、遙〜・・・。又四郎は剣道部に連れてっちゃダメなんじゃないか・・・。」
「う、うん・・・。なんか、目が爛々だよ・・・。」
又四郎は、明日が来るのを少し楽しみにしていた。