この時代に剣客が現れて剣道部に入ってしまったよ。
又四郎は鉄下駄を履いて片足で立つ。
それを交互に繰り返し、製材所で特別にあつらえた長く重い樫の木刀を振る。
呼吸を合わせ、抜き手に集中する。
忠明の家から少し歩いた場所に神社がある。
戦火でも残った神社の縁起は古い。
又四郎が中西道場に入門仕立ての頃、この神社の境内でよく稽古をした。
現代においても神社は存在していたのが、又四郎には感慨深いものがあった。
もっとも、又四郎本人は死後の地獄だと未だに思っては居るのだが。
御神木には又四郎が付けた傷が残る。
元々は打ち込みの大木だったが、今はしめ縄を巻かれて、御神木として崇められている。
手頃な杉を見つけ、又四郎は打ち込み稽古を行う。
蹴りと当て身も繰り返し稽古を行う。
そして、居合い抜き。
重い木刀にも係わらず、目で追えないほどの速さで繰り出す。
「あ〜居た居た。又四郎!」
遙がタオルと木刀をを持って神社にやって来た。
又四郎は素振り以外の稽古は基本的に人には見せない。
又四郎は稽古をやめ、遙のもとにやってくる。
「すごい汗だね。拭いてあげるよ。」
又四郎の汗を拭う遙。
「か、かたじけない。」
又四郎は少し照れる。
「私も素振りしようかな。」
遙も木刀を用意してきている。
又四郎も遙に習い、素振りを行う。
二人は無心に木刀を振る。
「ねぇ、又四郎の木刀を貸して。」
ふと遙は言い出した。
「遙殿、こう言ってはなんだが、この木刀はオナゴには振れない。重く、長い。」
「いいから、やってみないと解らないじゃない!」
又四郎の木刀に手を掛ける遙。
思わず手が触れ合う。
「あっ・・・。」
「おっと!」
二人はバランスを崩して又四郎は遙に覆い被さるように、倒れた。
「う、うわぁっ!」
二人は重なり倒れる。
又四郎はほどよく大きく、軟らかい遙の胸に顔をうずめてしまった。
遙が頭を打たないように左手は頭に回して、倒れた。
な、なんて良い匂いなのだ・・・。
そして素晴らしく軟らかい乳房・・・。
地獄ではなく、ここだけは極楽ではないか・・・。
又四郎は遠退く意識の中、鼻血を流しながら、遙の胸に抱かれ、思考が徐々に停止する。
「ちょ、又四郎!又四郎!!」
遙は叫ぶが、又四郎には届かない。
それがラッキースケベという奴なのだ。
意識が遠退く又四郎に何処からともなく聞こえてきた。
遙は又四郎を背負い、家に帰る。
「もう、重いなぁ・・・。」
又四郎の体温を感じながら、遙は幸せな気分になっていた。