この時代に剣客が現れて剣道部に入ってしまったよ。
又四郎は遙に怒られ、道場から出ていった。
水道で水を飲んで、空を見上げる。
なんとも言えない夕暮れの空に、未だに衰える事を知らない蝉の声。
自分が知る夏の暑さよりも、厳しい夏の暑さだと思った。
文字通り、盛夏だろう。だが、病的な地獄(現代)の溶けるような暑さに、閉口する。
「やはり、地獄とは暑いな。火の池地獄や灼熱地獄が、あるのだろうか?」
又四郎のアイデンティティーは揺るがない。
「お〜い。又四郎君!どうしたのそんな所でたそがれちゃって。」
カナがテニスコートから、又四郎に気が付いてやって来た。
カナはテニス部に所属し、テニス部期待の選手である。
勿論、例外無く美少女ポニテである。
「遙と部活に行ったんじゃ無かったの?」
「ああ、生意気なガキ共に稽古を付けてきた。で、遙に手加減をしろと怒られたので、つまらぬから表をブラブラしておった所だ。」
「稽古?手加減?ごめん!言ってる意味がよくわからないんだけど。」
又四郎は事の次第をカナに話して聞かせた。
「ええっ!?マジで!!近藤先輩気絶させたの?あと、土方(ひじかた)先輩たちも!?」
「ああ。奴等は床で延びている。」
カナは呆れて物も言えない。
「所でカナ殿。そなたがやっているのは何だ?見ていたところ、でかいシャモジと玉を撃ち合う羽子板みたいな事をやっているようだが?」
「えっ?あ、ああ、テニスね。そ、あれはテニスと言って、シャモジ羽子板では無いんだよね・・・。って、テニス知らないの?」
「ああ、初めて見た。どうだろう、一つわしにもやらせてはくれないか?」
又四郎は目を輝かせてカナに言う。
「べ、別に良いけど、出来るの?やった事無いんでしょ?」
「あの玉が地面に着いたら相手の地面にぶつけ返せば良いのだろう?」
「まぁ、単純にはそうだけど。」
「まあ、やらせてくれ。楽しそうだ。」
「じゃ、私のラケット貸してあげるから、あの男子とやってみたら?」
「お?シャモジを貸してくれるのか。かたじけない。」
「お〜い。部活見学者とラリーやってあげて〜!」
カナは男子生徒に叫ぶ。
男子生徒は頷く。
かくして、又四郎はテニス部男子生徒と初めてのテニスをする事になった。