この時代に剣客が現れて剣道部に入ってしまったよ。
「さてさて又四郎君。遙のプレゼントは何が良いかね?」
電車に乗ってからカナは又四郎に聞く。
「ふむ。そうさなぁ〜。普段からタダメシを食らい、ダラダラと過ごさせてもらっておるからな。」
「日頃の感謝の気持ちを表したいものが良いな。」
又四郎は通学中、流れる都会の景色をいつも目で追っている癖がある。
その癖のままカナと話している。
「日頃の感謝かぁ〜。何が良いかなぁ〜。」
電車は目的地の駅に到着した。
「さて、又四郎君。まずは見て回ろう。」
カナと又四郎は駅ビルに入る。そこはめくるめく商品が並んでいる。
「ああ、疲れた・・・。」
又四郎はカフェのテーブルにうつ伏した。
カナはコーヒーを持って戻って来た。
「はいはい、又四郎君。このコーヒーを飲んで元気を出しましょう。」
「カナ殿は元気だな。わしはこの人混みと、けたたましい騒音で参ってしまった・・・。」
「そうだね。今日は特に人が多いね。イベントか何かやっているのかな?」
カナはコーヒーを口に運ぶ。
又四郎も真似して飲んでみた。
「がはっ!!」
慌てて吐き出す。
「カナ殿!これは毒薬ですぞ!いかん!この苦さはまずいぞ!」
大声でカナに言う。
カナはビックリして目を丸くし慌てて又四郎の口を手で塞ぐ。
「ストップ!駄目!まずいなんて言っちゃ!」
「ふぐぐぐ・・・。」
カナの手は柔らかく、良い匂いがした。
「や、柔らかくて良い匂いだ・・・。」
思わず又四郎は口をついて言ってしまった。
カナは真っ赤になって慌てて手を離す。
「もう!又四郎君!コーヒーは苦いものなの・・・。」
目を伏せて又四郎に言う。
「そ、そう言う物なのか、この飲み物は・・・。」
又四郎も照れてしまう。
二人は無言のまま店を出る。
会計はカナが持った。
道すがら、オシャレな家具屋の前を通った時、又四郎はふと立ち止まった。
「カナ殿、しばし。この店に寄りたいと思うのだが。」
「え?ここの家具屋さん?有名デザイナーのお店じゃない?」
「ふむ。少し気になる木があるのだ。譲って貰えるか聞いてくる。」
「えっ?無理だよ!あ、ちょっと又四郎君!!」
又四郎はカナの制止を無視して中に入る。
「ああ、もう!」
カナは店の前で待つ事に成った。
又四郎は中に入り、店員と何やら話をしている。
しばらくすると、又四郎はテーブルの足に使う材木を抱えて出てきた。
30㎝程の長さの木材は、スカイブルーに塗装された古びたテーブルの足だった。
それを4本抱えて店から出てきた。
「いやぁ〜思いの外話がわかる男だった。」
「で、どうするのその木材?」
「ふははは。まぁ、見ていてくれ。わしの得意とする物を明日には披露できよう。」
「まさか、木刀を贈るんじゃないでしょうね?」
カナが怪訝な目を又四郎に向ける。
「ば、バカな。木刀ではない!」
「ほんとに〜?」
「本当だ。」
二人は笑いながら帰宅する。
結局又四郎は一銭も出さない買い物をした。
しかもプレゼントとは程遠い木片を嬉々として担いでいる又四郎。
カナは呆れたが、ほのかに期待していた。
きっと何か素敵な贈り物を、遙にしてあげるのだろう。
自分は徒労だったが、遙や又四郎の役に少しはたてたかも知れない。
それだけでカナは嬉しい気持ちになった。
駅で、又四郎はカナに、「いやはや、カナ殿。本日は本当にありがとう。ぷれぜんととやらを手に入れる事が出来たのは、カナ殿のお陰だ。礼を申す。」
と、かしこまって言った。
「楽しかったよ、又四郎君。その木でいったい何が出来るか解らないけど、喜んでくれたら良いね。」
「うむ。頑張ろう。」
二人は別れた。
カナは少し感傷的な気分になって歩いていた。
それはほのかに又四郎に対して抱いている、恋心なのかも知れないが、今はまだ蓋をしておこうと決めていた。
「ふふ。朝の又四郎君。面白かったなぁ〜。」
思い出し笑いが止まらなかった。