この時代に剣客が現れて剣道部に入ってしまったよ。
「おい!てめえどこを見て歩いてやがる!」
又四郎と、肩がぶつかったぶつからないで、因縁を付けてきた男がいる。
又四郎は意に介さず、歩き去ろうとする。
一刻も早く帰って、家具屋から貰ってきた木片を仕上げなければならない。
「おいおい!無視するなクソガキ!」
ぴく。
又四郎の歩みが止まる。
「おい、バカ面。今わしにクソガキとほざいたか?」
「な、バカ面だと!クソガキにクソガキと言って何が悪い!」
「ほほう。バカなのは顔だけではないらしい。どうやらオツムも足らぬようだ。」
「なんだと!!」
男は又四郎の胸ぐらを掴もうとした。
ガキン!
妙な音がする。
男は消火栓に叩き付けられた。
ベルトのバックルが激しく打ち付けられた。
「うぐぐ・・・。」
男の胸から刃物が落ちた。
「おっ?貴様、良いものを持っておるな。」
又四郎は男の落とした刃物を拾い上げる。
今時珍しい白鞘の短ドスだった。
鞘を外し、得物を確認する。
ぎらっと光る。
「あ、ま、待ってくれ!!」
男は慌てて這いずりながら逃げる。
「おい、得物は駄作だが、木を削るにはもってこいだ。この小刀拙者にくれ。」
「は、はい。差し上げます。どうぞ、どうぞ!」
男はよろめきながら、走って逃げていく。
「ふむ。良いものを貰った。」
又四郎は満足気に歩き出す。
果たして、又四郎は何を作るのか。
誰も解らない。
少し話は買い物の時にさかのぼる。
二人はカナのラケットを買う為に、スポーツ店舗でラケットを探す。
「いやはや、昨日は済まなかった。ついつい熱が入ってしまい、しゃもじはあの様だ・・・。」
「ふふっ。面白かったよ。昨日は。」
「して、カナ殿。どのしゃもじがご所望か?」
「しゃもじねぇ・・・。任せるよ、又四郎君に。」
「あ、このタイプね。こっちが硬式用だから。」
「これか。この形の方か?」
「そうそう。お願いね。」
しばらく店内を物色する又四郎。
カナも自分で探す。
一本のラケットがカナの目に留まる。
「あ、これ良いかも!」
すっとカナと同時に手が延びて来た。
『あっ・・・。』
二人の声がシンクロし、延ばした手も重なった。
同じラケットに手を延ばしたのは又四郎だった。
「こ、これはカナ殿・・・。どうなさった?こんな所で・・・。き、奇遇ですな。」
「そ、そうですな・・・。」
二人はあまりのドキドキで、意味がわからない事を言ってしまった。
帰宅するカナの傍らには、新しいテニスラケットが在った。
カナは、又四郎の手の温もりを思いだし、ラケットを見て赤面した。