この時代に剣客が現れて剣道部に入ってしまったよ。
又四郎とカナが買い物に行っていた土曜日。
織田高校剣道部レギュラーの3年男子四人が、部室に集まっていた。
「近藤!俺は今すぐにでもあいつともう一回やりたい!」
「このまま、あんなやられ方をして黙ってはいられない!」
そう切り出したのは、副部長の土方だった。
近隣の高校にその名を知られる土方は、大学へ剣道の推薦が決まっていた。
「正式な剣道の試合なら、あいつになど負けはしない。」
「まぁ、土方君。落ち着きたまへ。
確かに同じ土俵に上げたら別の話だが、奴は決して剣道部に入らないと思う。」
「まして、剣道の精神など微塵もないイカサマの喧嘩剣道だ。
正攻法では、この我々の煮えたぎるような怒りは収まら無いだろう?」
「近藤、と、言うと?」
聞き返したのは永倉である。
幼少から剣道に励み、中学時代全国制覇を成し遂げている。
「・・・。闇撃ちだ。」
「や、闇撃ちだと!?」
三人は声を揃える。
「ああ、あの喧嘩剣道だ。ならば私たちも喧嘩剣道で報復するまでだ。」
「しかし、近藤。仮に学校にバレでもしたら、我々は退学になってしまう可能性があるんじゃないか?」
そう言ったのは斉藤。
個人戦では目立たった成績を残していないが、通算の団体戦の勝率は無敗である。
つまり、団体戦で引き分けすらなく、全ての試合で勝利している。
かなりの実力者だ。
「ああ、斉藤君。解っているさ。元来、闇撃ちと言うものは、闇に紛れて敵を打つ。
つまり、バレないように周到な準備を行い、腕の一本折ってやれば良いだけの話。」
近藤の目は口調とは裏腹に策謀を巡らせ、ギラギラした目付きをしていた。
余程の怒りが、近藤に込み上げているのであろう。
「では、諸君。高柳を闇討ちする作戦を立てよう。」
四人は真剣に、そして陰湿で狡猾に、又四郎闇撃ち作戦を構築していく。
当の又四郎は、当然何も知らない。
自分がいつもやっていた中西道場の稽古を、高校生達に着けてやったに過ぎない。
いつもやっている事を、いちいち改まって考えたりはしない物だからだ。
ただ、剣道部レギュラー陣は、初めての挫折と屈辱を味わった。
剣道エリートとして許せないほど、自分達のプライドは傷付けられた。
自分には当たり前が、人にはそうでは無いと言う気持ちの機微が、強い遺恨を残す結果になる。