この時代に剣客が現れて剣道部に入ってしまったよ。



月曜日早朝の公園で、又四郎は素振りを行う。


小気味良い木刀の風を切る音が、響いている。


ラジオ体操の傍ら、又四郎は素振りを続ける。


「おはようございます。」


「ああ、おやじさま。おはよう。」


「お侍様、おはようございます。」


「おばばさま、元気そうだな。」



又四郎はすっかり公園で有名になっていた。

皆から挨拶を受けて、声を掛けている又四郎。



高柳又四郎は文献上、排他的な孤高の剣客と描かれる事が多い。

事実、又四郎は孤高である。しかし、描かれている程の変人ではない。


むしろ、和を尊ぶ情の人だった。


なので早朝の老人達と、挨拶をかわし、思いやる事ぐらいは至極当たり前なのである。




素振りを終えて、水道の水を飲み、ベンチに座っていると様々な相談を持ち掛けられる。



「孫が言うことを聞かなくてな〜。」

や、

「嫁が冷たくて・・・。」

や、

「腰痛が酷くて・・・。」

など、様々な相談を受ける。


たまにはマッサージをしてあげたりする。



人間の体の仕組みを熟知している又四郎は、的確なツボに的確な刺激を与える。

それが評判になり、日によっては行列が出来たりする。



しゃべり方が古風なため、お侍様と皆から呼ばれている。



ひとしきり朝の日課が終わり、家に戻り朝食を食べる。


学校へ行く準備をして、遙と一緒に登校する。



これが又四郎の朝の日常だ。



遙のスクールバックには昨日又四郎が彫った弁天がぶら下がっていた。



変わった彫り物だが、江戸時代において、七福神などは今で言うキャラクターと一緒の意味がある。

某ネズミやウサギ、ネコのキャラクターと一緒の意味合いなのだ。



「しかし、まさか西洋の頭陀袋に弁天をぶら下げるとは・・・。少し奇妙であるな。」


又四郎は遙に言う。


「そう?私は良いと思うよ。カワイイもの。」


「ま、まあ、遙殿が良いならそれで良いのだが。」



駅に着くと、カナが新しいラケットを持って待っていた。



「遙、又四郎君、お早う!土曜日はありがとうね。で、又四郎君。ちゃんと渡したかい?木刀。」


「だ、だから木刀ではない!!
あ、そうだ、カナ殿にもこれを。」



又四郎はカナに大黒を渡す。



「えっ?なになに!これ作ったの?又四郎君が!?ちょっと凄いね!」



カナは驚いた。


「もしかして・・・。あ、遙のそれも?」


遙のスクールバックを見てカナは言う。



「うん。又四郎からプレゼントして貰ったんだ。」


遙は嬉しそうに言う。



「ありがとう又四郎君。大切にするよ。」


カナも嬉しそうに受け取る。



「いやはや、そんなに喜んで貰ってその、なんとも、照れるなぁ〜。」



又四郎は照れながら横を向く。



3人は学校へ向かうため、電車に乗る。




二人のバックには精巧な女子高生には渋すぎるフィギュアが揺らめいている。



「きっと、私達を守ってくれる御守りだね。」


カナは遙に耳打ちした。

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