この時代に剣客が現れて剣道部に入ってしまったよ。
その鮮烈な当たりはピッチャーの頬をかすめ、真っ直ぐに校舎の窓ガラスを直撃した。
そのボールが直撃した場所は、ちょうど職員室だった。
不意を突かれた職員室は、学校を乗っ取るテロリストの襲撃かと思い、教員達は騒然となる。
硬球は、職員室の鉄のロッカーにめり込んで回転を止めた。
更なる弾丸が職員室に撃ち込まれた。
何が起きているのか解らない教員達は、全員が身の危険を感じ、床に伏せていた。
ガシャーン!!
合計で3発の弾丸。
同じ軌道で、同じ場所から。
教頭は取り乱す女性教員達に、落ち着くように促す。
すぐさま電話を取り、警察に連絡した。
男性教員達は、校舎に残っている生徒の安否を確認し、避難させるべく職員室から抜け出す。
しかし、職員室以外には撃ち込まれた様子は無いようで、校内は至って平穏だった。
職員室の校庭への出入口に、野球部キャプテンと、又四郎が立っていた。
キャプテンは、血の気の引いた顔をして、震えながら戸を叩く。
「す、すみません・・・。野球部の者ですが、玉が間違って飛んできてしまったようなんですが・・・。」
蚊の泣くような声で、キャプテンが絞り出すように言う。
気が付いた教頭は、慌てて出入口にやって来た。
「どうした!何があった!?校庭にテロリストが居るのか!!」
教頭は野球部員に問いただす。
「い、いえ・・・。野球部のボールが職員室まで・・・。その、なんと言いますか・・・。飛んでしまって・・・。」
「ボール?一キロ近く離れている練習場から飛んで来たと言うのか?」
「は、はい。そうなんです・・・。」
「おい、男。わしが打った玉だ。当然だろう。」
又四郎が教頭に向かい言い放つ。
「な、男!?先生に向かいなんだその口のききかたは!」
おもわず、口をついて出てしまった。
「仕方無いではないか。壊してしまった物は。いちいち怒るな。女々しいやつめ!」
又四郎は教頭に言う。
「君が打った玉が、あんな威力で此処まで飛んで来たと言うのか!?」
教頭は全く理解できていない。
プロであっても、無理であろう。
ほぼ、爆発しないだけの弾丸と同じ威力で、一キロ先から撃ち込むなどとは。
話を聞いていた教員達は、テロリストの襲撃かと思っていただけに安堵した。
しかし、高校生がこんな玉を打ち返してきた事には、合点がいかない。
それほどのデタラメな威力で、又四郎はボールを弾き返したのだった。
「あっ!警察呼んじゃった!!」
教頭は慌てた。
至急連絡を入れて、誤報だと伝える。
しかし、真に迫った声で電話をした教頭は、警察には無理矢理誤報だと言わせられていると思われた。
その結果、暫くすると、警察車両が数台、限界体制の布陣で到着した。
「あああっ・・・。あんなに一杯来ちゃった・・・。」
教頭は肩を落とす。
野球部キャプテンは、ワナワナと震えている。
又四郎は、そんな二人の肩に手を置き、
「そう、気を落とすな。お前達が悪い訳ではない。」
と、言って慰めた。