この時代に剣客が現れて剣道部に入ってしまったよ。
野球部の顧問と、生徒指導の担当者、学年主任達は、部活動で残っていた生徒の騒ぎの収拾と、近隣住民への説明に追われていた。
と、同時に、教師達は職員室の後片付けの真っ最中であった。
教頭の指示で迅速に、黙々と作業を進めていた。
校長はこの日、たまたま出張で不在だった。
恐らくは警察から、教育委員会を通じて、校長にも連絡は行っている事だろう。
警察を呼び、テロリストの襲撃かと早とちりした教頭は、鳴りやまない電話の音を聴きながら、胃袋がしゅくしゅくと痛んでいる。
「片付けを手伝おう。」
又四郎が職員室に入ってきた。
教師達は一斉に又四郎を見る。
「なんだ、お主たち。化け物でも見るような目で、わしを見おって。」
「で、わしは何をすれば良い?」
教師達は又もや一斉に、「いいから早く下校しなさい!!」と、叫んだ。
騒ぎは、剣道部にも伝わっていた。
勿論、テニス部にも。
遥もカナも、「ああ、又四郎の仕業だな・・・。って言うか、やっと起きたんだぁ・・・。」と思いながらも、黙って部活を続けていた。
二人にとって、又四郎がやらかす珍事は、何故か受け入れてしまうものだった。
又四郎に会って、僅か一月も経たない間に様々な事が起きて、感覚はある意味麻痺している。
又四郎なら有り得るとさえ思うまでに、二人の又四郎に対する親密さは増していた。
それは、スクールバックで揺れている渋キャラを貰ったからだけではない。
何故か、ハチャメチャで憎めない又四郎に対する信頼感が、二人には芽生えていた。
剣道部主将、近藤は三年レギュラー陣と、野球部で起きた事件の情報を集めていた。
「近藤。やはりあいつは正攻法では倒せんぞ。」
土方が近藤に言う。
「ああ、土方君。闇討ちをするにしても入念な計画が必要になる。」
近藤達は顔を近付け、何やら話を詰めていた。
「よし!それで行こう。くれぐれも我々の仕業だと解らないように、秘密裏に事を進めよう。」
土方、斎藤、永倉は頷く。
どうやら、闇討ちの段取りが決まった様だった。
その頃又四郎は、サッカーボールを操り、サッカー部員達と追いかけっこの真っ最中だった。
11人掛かりでも、又四郎のドリブルを止められない。
神がかったドリブルとシュートをお見舞いし、剣道場へ向かっていた。
これだけ滅茶苦茶な運動能力を持ちながら、人に害を成さない。
とは、やはり、言い切れない・・・。又四郎であった。