この時代に剣客が現れて剣道部に入ってしまったよ。



「や、やあ・・・。高柳君。先週はどうも・・・。」



近藤は又四郎を見るなり、少しまごつきながら挨拶をかわす。



「うむ。お主も息災のようで何より。」



又四郎は近藤の目を見つめて言う。



慌てて近藤は目を逸らす。


「し、しかし、なんだな・・・。君は強いな。一体なんと言う剣術をやっているんだい?」



「ふむ。貴様ら千葉剣道に言っても解るまい。お主達はお主達で、千葉剣道を極めたら良い。」



又四郎は道場の床に座り、部員たちを眺める。



「ま、まあ、見学は自由だから見ていってくれ。」


近藤はそそくさと立ち去り、練習を始めた。



「又四郎、今度は何をやったの?」


遥が近付いて来て、又四郎に聞く。


又四郎は野球部の子細を話して聞かせた。



「ふははっ。又四郎、やり過ぎ!!」


遙はそれだけ言うと、練習に戻っていった。



実に清々しい人だ。

と、

又四郎は思った。




「剣道部顧問、芹沢先生が来られました!!」



剣道部の一年生が、大きな声で伝える。



全員が練習を止めて整列する。


近藤が号令を部員に掛ける。
「師範に礼!宜しくお願いします!!」
全員が声を合わせて挨拶をする。
「宜しくお願いします!!」


「遅くなった。少し色々あってな。宜しく。」


不機嫌そうな芹沢は生徒に軽く頭を下げる。



織田高校剣道部顧問・芹沢賀紋(せりざわかもん)。
何度も織田高校剣道部を全国大会へ導いた、指導者である。


高校で個人戦全国優勝、大学は全国大会個人戦3連覇を成し遂げた実力の持ち主である。


大きな体格と身長。
厳つい顔付きから、その壮絶な指導と、稽古も相俟って、鬼師範の異名を持つ。



「うん?見学者か?」


芹沢は又四郎を見た。

途端に芹沢の顔付きが変わる。

「あっ!お前はさっきの職員室を滅茶苦茶にした生徒じゃないか!!
下校しろと言われたはずだぞ!」



ばん!


又四郎は床を叩く。


「何度言えばわかる!!あれはたまたま玉が貴様らの部屋に飛び込んだだけだ!!
そして、わし一人では家に帰れんのだ!!」


「ぬ?家に一人で帰れないだと!教師をバカにしているのか!!それになんだ、教師に向かってその口の訊き方は!」


芹沢は激昂して又四郎を睨み付ける。

しかし、又四郎にただならぬ気配を感じる芹沢。



「ほほう。見たところ、初心者では無さそうだ。まして、あんなライナーを打つ体幹の持ち主だ。良い機会だ。見学では物足りないだろう。俺が稽古をつけてやるか。」


芹沢はお灸を据えるべく、挑発するように又四郎に言った。


「ふん。貴様などわしの相手には成らんよ。」



又四郎は馬鹿にするように芹沢に言った。



「ほほう。良い態度だ。」

芹沢は尚も続ける。
又四郎の口答えに対して教師としての理性が切れた。

芹沢は職員室の後片付けで、イライラしていた。
こんな面倒な事をした生徒は、制裁を加えてやりたい気持ちだった。

そんな行為を行った張本人の生徒が部活の見学に来ている。
これは千載一遇のチャンスだとばかりに又四郎を挑発する。
なにより体罰ではなく稽古と言う形で制裁を与えることが出来る。

嬉々として、冷静さを失った芹沢は、必要以上に悪態をついた。




「口のききかたも知らないクソガキが!ほら、立て、口先だけか馬鹿者め!!」



芹沢は又四郎に言ってはならない一言を言ってしまった。



「おい、下郎。人を見掛けで判断しおったな・・・。虫の居所が悪いのを人にぶつけおって。良かろう。稽古をつけて頂こうではないか。」



又四郎の顔つきが変わる。



剣道部は凍り付いた。



遙ですら、声を出すことが出来なかった・・・。

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