この時代に剣客が現れて剣道部に入ってしまったよ。
「おい、きさま。あの日はよくもやってくれたな!」
笹岡忠亮は、平伏している又四郎の頭に足を乗せる。
「だが、きさまのお陰であの娘の体を堪能する事が出来た。それは感謝しておる。」
へらへらと薄ら笑いを浮かべ、笹岡忠亮は続ける。
「祝言を挙げて暫くは毎夜タップリと可愛がってやろう。うくくくく・・・。」
「まあ、飽きたら暇でも出して、それから幼馴染みのきさまが抱いてやれば良かろう。くっはっはっ!」
又四郎の背中がピクッと震えた。
瞬間、忠亮の足を奪い、膝を前方へへし折る体勢になっていた。
「うがっ!や、止めぬかきさま!!」
忠亮は土間に倒され、痛みに耐えながら叫んだ。
周りに居た笹岡家の家臣達が又四郎を押さえ込もうとするが、忠亮の足が折られてしまうかも知れないと、じりじり取り囲むだけだった。
「又四郎!もう止めて!!」
凛とした声が、響いた。
ハルが廊下から玄関へ現れた。
卑下した顔ではなく、気丈に振る舞ったその姿は、忠亮の野蛮な暴力を受けた女性の姿ではなかった。
「ちっ!離せ!まったく、抱いておる時も声を一言も出さないとは・・・。」
ハルを見上げた忠亮は、忌々しげに吐き捨てた。
「まあ、これからは毎夜たっぷり可愛がってやるからな!覚悟しろ!!」
「そこの狂犬!うちの姫様をさっさと家へ連れていけ!」
足を引きずり、忠亮は奥の部屋へ消えた。
又四郎とハルは、黙って帰り道を歩いた。
お互い、何も言わない。
小さい頃からよく遊んだ畦道も、今はなぜか弾むような気持ちになれない。
十五才の又四郎は女を知らない。
貞操の意味も解らない。
ただ、ハルを見ていると、女性の美しさと、危うい儚さを本能的に感じずには居られなかった。
「又四郎・・・。私、本当はあなたが好き・・・。」
涙が、又四郎の頬へ風で飛ばされてきた・・・。