この時代に剣客が現れて剣道部に入ってしまったよ。



又四郎と同じクラスの委員長、瀬戸未来は、クラスを代表して又四郎の見舞いに訪れていた。



「小野さん。もう一月経つけど、高柳君の容態は変わらないの?」



「うん・・・。見ての通り。人工呼吸器のまま。」



集中治療室の窓越しに又四郎を見ながら、二人は話している。



「このまま、意識が戻らないなら、いつかは人工呼吸器を止めないとって、兄さんが言っていたの。」



「えっ!それは酷いよ!」



「うん。解ってるけど、このままじゃ、又四郎が可哀想で・・・。」



ポロポロと涙をこぼす遙。


ふと瀬戸は、遙のカバンに目をやる。


「そのストラップ、可愛いね。」


「あ、これ?又四郎が誕生日プレゼントに彫って作ってくれたの。」


「え?それって高柳君が作ったの?凄い上手!」

「へへっ。良いでしょ?カナも作って貰ったんだよ。」
泣き笑いで、瀬戸に見せる遙。


「いいなぁ〜・・・。」

思わず声に出して、瀬戸はハッとする。
赤面しながら、遥をそっと見ると、どうやら聞こえていないようだった。

ほっとして、瀬戸は胸を撫で下ろした。





カナは忠明に神社でのいきさつを説明し、犯人探しに協力していた。



神社には物的証拠がBB弾程度しか残っておらず、周辺の防犯カメラにも犯人らしき人物は映っていない。


無人の神社にはカメラなどあるはずもなく、捜査は完全に行き詰まっていた。



「一体誰が、こんな酷い事を・・・。」



瀬戸未来は溜め息をついた。




確かに又四郎は誤解されやすい。


自分の意見を曲げず、摩擦もあった。


今時珍しい古風な男であったが、今の男子達には無い魅力があった。


遙達と出会って僅か3ヶ月の間に、又四郎と接した全ての人達が、何らかの影響を受けて、知らず知らずに変化している事に、今は未だ気付いていない。


突然現れた正体不明のこの男は、何の為に現れたのか・・・。


誰も考えていない。


それほど、高柳又四郎と言う男は、彼等、彼女等にとって、今や当たり前の存在に成っていた。


現に、千葉や道場の警察官、監察医の大石、公園で接した沢山の人々。
撮影会で写真を撮っていたカメラマン達ですら、情報を聞き、見舞いに訪れて来た。


来た誰もが又四郎の回復を願い、遙達に寄り添った。



又四郎は、未だに目を覚まさない。




やがて、織田高校剣道部は男子団体戦において、インターハイを制する。


全国制覇を成し遂げた剣道部は、意気揚々と学校へ戻り、3年男子レギュラー陣は受験の為、引退した。

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