この時代に剣客が現れて剣道部に入ってしまったよ。
「なあ、君。そこで何をしているんだ?」
沖田は、病院の金網を飛び越え、今にも飛び降りそうな平賀に声を掛けた。
「こ、来ないでくれるか!!僕は今、人を殺して来たんだぞ!!」
平賀は裏返る声を必死に整えながら叫ぶ。
平賀が集中治療室から飛び出して行くのを見た沖田は、平賀の後を追って、屋上まで来た。
「残念だけど、君は人を殺しちゃ居ない。彼なら今意識を取り戻したらしいよ。」
スマホに届いたメールを開いて金網越しの平賀の前に置く。
「えっ!な、なんで?めちゃくちゃにしたのに、なんで又四郎君の意識が戻ったの!?」
顔面蒼白の平賀。
「なあ、解っただろう?彼は死んじゃ居ない。むしろ、君と話がしたいそうだ。」
平賀はへたり込む。
身体中の力が抜けてしまったようだった。
「さあ、こっちに来なよ。ゆっくりで良いから。」
沖田は平賀に移動を促す。
「うわあぁぁっ!!何で死なないんだよ!あいつ!!妹が!妹が殺されちゃうじゃないか!!!」
「落ち着け!君!!」
沖田は素早く金網を越えて、平賀の体を捕まえる。
このまま二人が落下してしまうのを防がなければならない。
平賀に当て身を食らわせ、気絶させる。
ぐったりとした平賀を、安全な場所まで運び出す。
「ふう・・・。」
看護師を呼んで、平賀を一旦医務室まで運んでいった。
「ん?何だこれ?」
金網に靴と手紙が置かれていた。
おそらくはさっきの少年のものだろう。
沖田は手紙を確認する。
「うわぁ〜やっぱり遺書だな・・・。」
高柳又四郎を襲撃したのは僕です。責任を取って死ぬことにします。
と、書かれた遺書だった。
「パソコンで書かれた文章で、本人の名前も書いていないな・・・。」
「妹が殺されるとか言っていたな・・・。」
沖田は考えながら、又四郎の病室へ向かった。
又四郎が意識を取り戻したと言う知らせは、皆に知らされた。
すぐさま、忠明とカナが駆け付けた。
二人は又四郎を見るなり絶叫して飛び付いた。
涙が止まらない2人を見た遙も、更にもらい泣きして、3人は号泣していた。
人目もはばからず、ワンワン泣いた。
又四郎は痛む体で顔を歪め、3人を見ながら苦笑いしていた。
「お取り込み中悪いけど、あの男、自殺しようとしていたよ。」
軽く扉をノックして、沖田が皆に告げる。
全員が沖田を見る。
「平賀君が!?」
遙が驚いたように言う。
「ど、どういう事だ、遙?」
忠明は遙に聞く。
「良かったら別室で、平賀君?でしたっけ?彼も交えながら話をしませんか?」
沖田が全員に提案する。
皆は頷き、別室へ移動することにした。
「す、すまん・・・。皆。話が終わってからで良い、平賀をわしの所に連れて来てくれないか。」
「ああ、又四郎解ったよ。」
忠明が又四郎に答える。
「す、すまんな。忠明殿。」