この時代に剣客が現れて剣道部に入ってしまったよ。
別室は医療関係者が休む休憩室だった。
医務室から正気に戻った平賀もやって来た。
五人が休憩室に集まった。
「えっと、結論から言いますね。」
沖田が口火を切った。
「高柳又四郎君を襲ったのは、剣道部の3年レギュラー陣で、間違いありません。」
ギョッとする忠明。
「お、沖田君。どういう事だ?」
「まあ、推理なんですけど・・・。小野さん、この病院に入院している澤部って知っていますよね。」
沖田は忠明に聞く。
「ああ、もちろん。この界隈のヤクザでも有名な喧嘩家だからな。」
「その澤部の指金です。」
ん?と、首をかしげる忠明。
「つまり、澤部がこの病院に運ばれてきた日に、高柳君が現れた。
そして、何らかの理由で、肩の骨を砕かれて再起不能の大怪我を負ってしまった。
澤部自身、復讐をしたいが大怪我で病院から出る事が出来ない。
するとそこへ、弟から高柳君が織田高校に編入してきたと連絡を貰った。
時期や高柳君の話し方が兄の証言に酷似していたんでしょう。」
「皆さん、ここまでは解りましたか?」
沖田は一同を見る。
「沖田君。ここまでの話は解ったよ。なんか、あれだ、探偵みたいだぞ。」
忠明が真面目な顔で沖田に言う。
「あ、すいませんね。偉そうに。結構好きなんですよ、探偵とかの真似事が。」
思わず自分の興味を突かれ、照れ臭そうに、頭を掻く沖田。
「ほう、そうか。おっと話の腰を折って済まない。続けてくれ。」
沖田は続ける。
「どうやら、澤部弟は陰では色々とやっていたらしく、決して面立っては動かない。
兄の力も利用しながら、高校生とは思えないヤバイ人脈もある。
そんな後ろ楯の兄を、このような目に遭わせた奴が許せないと、兄の復讐をするための機会を伺っていたようです。」
「高柳君に、剣道部3年がやられたと噂を聞き付けた澤部弟は、普段から気位が高く、エリート意識が強い剣道部員の事を知っていました。」
「近藤先輩に高柳君の闇討ちする話を持ち掛けたんです。」
「えっ!どうして!?」
遙は驚いた。
「澤部の兄の話をしたんだと思います。
恐らく、高柳君は兄を病院送りにした悪い奴なんだとか、言い含めて。」
「それから近藤先輩は土方先輩達に闇討ち計画を話して、仲間に引き込みます。
小野さんに高柳君の行動パターンを何気無く聞き出して、入念に準備を始めたんだね、きっと。」
「そんな時に芹沢先生も、高柳君に打ち負かされて、いよいよマズイ事になった3年生は、顧問も捲き込んで、高柳君の闇討ち計画を実行したんだ。」
「澤部と言うヤクザの後ろ楯と、澤部から何らかの協力を得た近藤先輩達と、芹沢先生は、神社で高柳君を襲う。」
「あくまで推理だけど、小野さん。どうでしょう?」
忠明は口を開く。
「ああ、警察も目星は付けていた。
大石監察医の見立てで、両腕の骨折は、木の鈍器。すなわち木刀である可能性が高いと。
それで剣道部、若しくは剣道経験者の仕業だと、制服の目撃情報を洗って、近隣の高校の捜査をしていた所だ。」
「そこで、ここからなんです。澤部の兄は、又四郎自体を殺すことにします。」
全員が驚きの表情を浮かべる。
「ここに居る、平賀君を使って・・・。そして、平賀君に一切の罪を背負わせて高柳君を殺す積もりだったんです。」
平賀がピクリと肩を震わせる。
「高柳君を殺したく成ったのも、もうヤクザをやっていけなくなったからなんです。」
「彼等の執念は恐ろしいものだね・・・。」
「澤部兄の指示で襲撃した事実。
ヤクザとしての面目を高校生に潰された事。
この2つで、平賀君の妹を誘拐し、立場の弱い彼を利用して、高柳君を殺す事にしたんです。」
平賀は泣き崩れて、床に倒れ伏した。
「な、何だって!平賀君!それは本当か!!」
平賀は答えない代わりに、大声で泣く。
「小野忠明さん、この文章を見てください。」
パソコンで書かれた遺書を忠明に手渡す。
「何と・・・。酷い真似をしやがる・・・。」
忠明は忌々しげに壁を睨みつけた。