この時代に剣客が現れて剣道部に入ってしまったよ。
平賀達は又四郎の元へやって来た。
「ご、ごめんよ、又四郎君・・・。本当にごめんよ・・・。ぼ、僕は君を、こ、殺そうとしたんだ・・・。」
涙ながらに謝る平賀。
平賀に顔をゆっくり向けて又四郎は言う。
「ひ、平賀・・・。
もう謝るな・・・。男が下がるぞ・・・。」
又四郎は痛みに耐えながら声を絞り出す。
「お主の言っていた幼少期からの告白を、わしはちゃんと聞いていた・・・。」
平賀はビックリする。
「大丈夫だ・・・。何も心配する事はない・・・。お主の可愛い妹も、必ず無事だ・・・。」
「ま、又四郎君!!」
平賀は又四郎のベッドに這い寄る。
「お主はもう、一人ではない・・・。ここに居る皆が、力になってくれる筈だ・・・。」
「だから、あの時、死んでやれなかったわしを、許してくれ・・・。」
又四郎は平賀に精一杯の声で言った。
平賀の目頭に更に熱いものが込み上げてきた。
その熱さは、今まで感じたことの無い涙の温度だった。
部屋に居たみんなが、鼻の奥からジワリと熱を帯びて溢れ出す、その熱い涙を流していた。
そんな中、沖田は一人、澤部の兄が入院している部屋へ向かった。
コンコン・・・。
部屋をノックし、中に入る。
「澤部さん。あんたはやり過ぎた・・・。平賀君の妹は、何処に居るんです?」
「っち・・・。」
舌打ちが聞こえた。
「さあな・・・。何の事だか、知らねぇな。」
澤部の兄が言った。
沖田はベッドに詰め寄る。
「いい加減にしろよ・・・。」
澤部の胸ぐらを掴み上げ、ベッドから引きずり落とす。
「なっ!こ、こんな事してただで済むと思うなよ、クソガキが!!」
沖田は足で澤部の怪我した部分を押さえる。
「クソガキじゃねぇ。貴様の減らず口を聞いている場合じゃねえんだ・・・。」
語気を低く、そして強く凄む。
「い、痛てぇ・・・。退かせ足を!う、うぎゃあっ!!家だ!俺の女と一緒にいる。」
沖田は止めに足に荷重を掛けた。
ぐぐぐぐぐっ・・・。
うぎゃぁぁぁ・・・。
ゴキンっ!
治りかけの澤部の肩の骨が外れた音がした。
澤部はそのまま気を失って倒れた。
沖田は澤部の頭を持って、病室の床に叩き付けた。
がちん!
ナースコールを押す。
あわてて看護士が駆け付けてくる。
「あ、悪いけど澤部さん、ベッドから落ちて頭を強く打ってしまったようなんだ。」
「肩も一緒にぶつけて外れてしまったかな・・・。」
それだけを告げて沖田は病室を後にする。
又四郎の部屋へ来た沖田は、忠明に耳打ちした。
「平賀君の妹は、澤部の女の家に居るそうですよ。」
「本当か!?解った!すぐに向かわせる。」
忠明は平賀に、その事を話した。
平賀は更に泣き崩れ、感謝の言葉と、謝罪の言葉を繰り返し言った。
そこに居た全員が、安堵し、喜んだ。
沖田は又四郎に近付いて行く。
「おはよう。高柳君。やっと君と話が出来るね。」
一言、意味深げな言葉を又四郎に投げ掛け、部屋を出ていった。
一様に長い夜は、終わろうとしていた。