この時代に剣客が現れて剣道部に入ってしまったよ。
倉庫の梁に、平賀がロープを掛けて首を吊っている姿が在った。
それを目撃した近藤は、腰を抜かし、悲鳴を上げて、ヘタリ込んだ。
芹沢が近藤の懐中電灯を拾い上げて、先を照らす。
「うわっ!な、なんて事だ!!遅かったか!!」
身体中から血の気が引くのを感じ、芹沢は立ち尽くした。
他の3人は、確認もできず、しゃがみこんでガタガタ震えていた・・・。
シャーッ・・・。
ブチン!!
何か音がしたかと思ったら、明らかに平賀に巻かれたロープの切れる音が聞こえた。
ドサッ!
平賀の遺体が地面に落下した音だった。
音に慌てて懐中電灯を落としてしまった芹沢は、慎重に懐中電灯を拾い上げて、平賀が落ちた音がした場所を照らす。
うつ伏せのままの、落下した平賀がライトに照らされた。
平賀はそのまま微動だにしない。
「し、師範。ど、ど、どうしましょう・・・。」
近藤は狼狽えて、芹沢に聞く。
「ど、どうもこうも・・・。平賀が死んだ以上、ここに居るわけにはいかない・・・。」
「さ、さ、澤部の仕業ですかね・・・。」
「さ、さあ、わからん・・・。とにかく、まずい事に成った。
すぐにここを離れよう・・・。」
5人は、無理矢理立ち上がり、逃げるように入り口に向かう。
斎藤が叫んだ。
「か、鍵が掛けられています!!入り口が開きません!!」
およそ、そこには考えが及ばなかった。
まさか澤部に、倉庫に閉じ込められるとは・・・。
この時、全員が自分達は完全に犯人に仕立て上げられたのだと思った。
痛恨の絶望が5人を呑み込んだ。
ふと、その時。
−な、なんで・・・。−
土方に何かが聞こえた。
「おい!斎藤!何か言ったか?」
土方が斎藤に怒鳴る。
「何も言ってねぇよ!!」
斎藤も怒鳴り返す。
「落ち着け二人とも!」
永倉も怒鳴る。
「お、おい・・・。何か聞こえないか・・・。」
近藤が3人を黙らせる。
−な、なんで・・・した・・・。
ぼくを・・・なんで・・・ろした・・・。−
「おい!冗談はやめろ!怒るぞ!」
「し、師範。自分達ではありません!!」
「じ、じゃあ、ど、何処から聞こえるんだ?」
芹沢は周りを見渡す。
懐中電灯を照らし、周りを確認する。
何かが、モゾモゾと這って来るのが見えた。
「お、おい・・・。あれを、み、見てみろ・・・。」
芹沢は這って来る何かに明かりを当てる。
「ひ、平賀だっ!!!」
−なんで殺した!なんで僕を殺したんだ!!−
大音量で、平賀の声が響いた。
5人は、驚愕のあまり腰を抜かし、その場に倒れ込んだ。
ガタガタと震えながら耳を塞ぐ。
平賀は「何故殺した!」と言いながら、這って、5人の元に近付いて来る。
近藤は大声で叫ぶ。
「俺達は殺していない!!
お前を殺したのは他の奴だ!!
だからこっちに来るな!!」
腰に隠した伸縮式の警棒を抜いて、平賀目掛けて投げ付けた。
バシッ!!
警棒が平賀の遺体にぶつかる音がした。
「俺達は高柳しか襲っていないんだぞ!
なのに、お前が自殺するなんて思わなかったんだ!」
芹沢が平賀に向かって言う。
「高柳を殺させたのはお前の妹を拐った澤部の仕業だ!だから、こっちに来るな!!」
土方も叫んだ。
「罪をお前に被せるために澤部が仕組んだんだ!俺達は関係無いんだぁ・・・。許してくれ〜・・・。」
全員が平賀に懇願する。
極度の恐怖と緊張から、5人は自ら喋りまくる。
聞かれても居ない事を喋り、自分達のせいでは無いと詭弁を弄する。
それは本心から助かりたいと願う極限の心理なのだろう。