この時代に剣客が現れて剣道部に入ってしまったよ。
ガチャン・・・。
南京錠が開く音がした。
そして、倉庫の扉が開かれて中に小野忠明が入って来た。
表はパトカーの赤色灯が光っている。
平賀はムクリと起き上がった。
「そういう事だそうですよ。」
よくよく見ると、首を吊って落下して、這って近藤達を追い詰めたのは、平賀ではなく、沖田だった。
沖田は伸縮式の警棒を持ちながら、ボイスレコーダーを取り出して、忠明に渡した。
近藤達は何が起きているのか解らない。
ぽかんと、呆気に取られていた。
「お、沖田・・・。どういう事だ・・・?」
「いやぁ〜、近藤さん。ダメですよ、悪いことしちゃ。」
沖田は近藤達に目配せする。
「あの平賀君の声ね、録音したやつなんです。
予めスピーカーをセットして、流すんですよ。」
倉庫に明かりが灯される。
首を吊っているように見せ掛けていたワイヤーも姿を表した。
「で、真実はこうです。」
沖田が指差す方向を5人は見る。
柱の陰から、平賀が車椅子を押して歩いて出てきた。
その車椅子には、又四郎が座っていた。
「又四郎君も是非、自分を此処まで追い詰めた奴等を見たいと、病院を説得して連れてきたんですよ。」
「僕としては、又四郎が生きていたぞと、近藤先輩達に解るように映像とかでも良かったんですけど。」
脂汗を流しながら、又四郎は車椅子に座っている。
絶対安静な状況だが、奇跡的な回復力を持って、沖田達と同行した。
「こ、こんな・・・。こんな茶番!!ふざけるな!!」
芹沢は激昂し、警棒を持って又四郎目掛けて襲い掛かって行った。
「馬鹿者!!」
稲光のような、雷轟のような声が響いた。
芹沢は身動きができない。
強烈な又四郎の声の一撃だった。
車椅子から転げ落ちながら、叫んだ。
「お、お前達・・・。今ならまだ、間に合う。」
又四郎は絞り出すように言う。
「わしは、お主達を許す。だからもう止めよ。」
沖田が又四郎に駆け寄る。
「良いのかい?又四郎?」
「あ、ああ。」
それだけを言うと、又四郎は気を失った。
すぐに沖田は又四郎を車椅子に乗せる。
「平賀君、頼むよ。」
平賀は頷き、足早に倉庫を出る。
通り過ぎようとする平賀に近藤が呼び掛ける。
「ひ、平賀!妹は!?」
平賀は近藤の顔を見ずに言う。
「無事でした・・・。」
それだけを言って平賀は又四郎を乗せた車椅子と共に去っていった。
放心した5人は、何も喋れないまま、うつむき、うなだれていた。