この時代に剣客が現れて剣道部に入ってしまったよ。
学生の本分は勉強である。
又四郎の本分は剣術である。
相容れない思想は、教室に異質を生じさせる。
大怪我から復帰した2学期初日の又四郎は、以前にも増して、弱ってしまった体を取り戻すために鮮烈なまでの肉体改造を行っていた。
俗に言う、片手逆立ちである。
「え、ええ・・・。皆夏休みはどうだった?まあ、怪我した奴や、転校した奴も居たが、こうやって元気な顔を見れて嬉しく思う。」
逆立ちする又四郎を、チラチラ見ながら、教師は話す。
「こらっ!高柳!!」
チョークが飛ぶ。
バシッ!!
又四郎は空いている片手の人差し指と中指で受け止める。
「おい、教師。名前を呼んでから攻撃など、バカでも防げるぞ。」
お〜っ!!
クラスがどよめく。
「バカ者!その教師が話している時は、ちゃんと席に座って話を聴かんか!!」
青筋を立て、怒る教師。
「断る!!」
又四郎はキッパリと言う。
「・・・。」
「ほら、始業式が始まるから全員講堂へ移動しろ。」
呆れた教師はそう告げて教室を出る。
「又四郎君。講堂へ行こうよ。」
平賀はしゃがんで告げた。
「うむ。行こう。」
片手で跳躍し、すたっと足を着いて立ち上がる。
またしてもクラス内にどよめきが走る。
真に必要とされる筋肉の鍛え方を理解している又四郎であった。
校長がお決まりの話をし、校歌を歌う。
芹沢の異動は、教頭が告げた。
今回の事件については詳しくは説明されなかったが、生徒たちの情報網は早く、皆はすでに知っていた。
「ええ、皆さん。重要なお話があります。」
教頭は最後の連絡事項で生徒達に告げた。
「二学期を持ちまして、剣道部は無期限の活動停止になりました。」
遙は、自分の耳を疑う。
教頭は続ける。
「顧問の異動に伴い、指導者が居らず、また教育委員会からの通達によりまして、織田高校剣道部は無期限の活動停止。
現在の部員は速やかに退部届けを提出し、他のクラブ活動へ移るか、他の剣道活動クラブへ移るか検討して下さい。」
寝耳に水だった。
遙はあの事件の後から部活には行っていなかっただけに、こんな事態になっていた事に衝撃を受けた。
同じクラスの剣道部員ですら、初耳であって、動揺を隠せない。
ただ、遙以外の夏休みの剣道部員の活動は顧問が異動するに伴い、休部していたので、皆は薄々こうなる予感はしていた。
「尚、剣道部の指導者が見つかり次第、活動は再開しますが、部ではなく同好会として活動をしていただく事に成ります。
勿論、部活動ではない為、部費は全額カットになりますが・・・。
有志による練習や、活動に於いては道場の使用許可を提出すれば、認めます。」
教頭はそう告げてステージを降りた。
剣道部員達に動揺はあったが、休部中にそれぞれが結論を出していた。
ほぼ、現在の部員全員は退部するであろう。
以外にそんなものである。