この時代に剣客が現れて剣道部に入ってしまったよ。
「まあ、顧問が居ない以上学校側としても休部が妥当かと言う結論に達した感じだな。」
沖田は遙に話す。
昼休み、遙は沖田に相談にのってもらった。
「無期限の休部にするからには、自主退部する部員の意思も尊重して、こう言った経緯に至ったんだ。」
成るほど最もである。
本音を言えば、今回の事件を受けて剣道部自体を廃部にせざる負えないが、実績から鑑みて休部が妥当であると結論付けたのであろう。
この学校側の措置によって、実質剣道部は解散。
無期限の活動停止に成ったのだった。
遙はほとほと困り果てた。
ようやく落ち着いて、部活動を続けられると思っていただけに落胆していた。
同じクラスの剣道部員に話をしても、もうやるつもりは無いようで、恐らくは既に申し合わせて退部届を提出する積もりなのだろう。
まだ高校一年生だ。
高校側がこう言った結論を出した以上、他の部に乗り換えるのも早い方が良いに決まっている。
「沖田君は、どうするの?」
遙は聞く。
「う〜ん・・・。元々それほど熱心ではなかったからね。成り行きでレギュラーに成っていたけど、どうしても剣道部でやりたいとかは思わないかな・・・。」
「そうなんだ・・・。」
少し寂しい答えだと、遙は思った。
「まあ、でも又四郎が続けるのであれば、考えようかな。」
そう、沖田は結論を出した。
「又四郎は、やってくれると思うよ。」
遙はキッパリ言った。
遙には、それなりに確信はあった。
襲撃を受ける日まで、警察道場で、剣道を基礎から学び直していたからだ。
「そっか、まあ、彼とは一度剣道をじっくりやってみたいと思っていたから、彼がやるなら同好会に参加するよ。」
沖田はそう答えた。
その後、
お昼休みに、剣道部の二年生を尋ねた遙だったが、剣道部に戻るという二年生は、誰もいなかった。
二年生も夏休みの間に、退部する意思を固めていたようで、同好会でも参加する意思は無いようだ。
彼等の理由は様々で、受験に備える為だとか、顧問が居ないならやる意味がないだとか、何かやらない理由を探しているようだった。
つまりは、織田高校の剣道部に起きた様々な事件から、もう誰も剣道部とはかかわり合いたくないと言うのが、退部する全員の本音なのだろう。
始業式。
遙の2学期一日目は落胆で終わり、放課後を迎えた。
居眠りしたまま起きない又四郎を置いて、遙は先に剣道場に向かった。
もしかすると、誰か来ているかも知れないと期待をしていたが、剣道場には、誰もいなかった。
静寂が道場を包む。
以前の活気に満ちた道場には到底思えない程、静まり返っている。
遙は深くため息を付いた。
ふと、背後に人の気配を感じて振り向いた。
平賀だった。
「あ、あの、小野さん・・・。」
「どうしたの?平賀君?」
「さっきから剣道部の人が来るのを待っていたんだけれど、誰も来なくて・・・。」
平賀は口ごもりながら遙に言う。
「ぼ、僕を剣道部に入らせて貰えないかな!」
「えっ?」
遙は驚く。
「今回の事件で、僕は思ったんだ・・・。
別に又四郎君や、小野さん達に恩を感じて、無理矢理入ろうと思ったんじゃなくて、色々ずっと考えていて・・・。」
遙は黙って聞いている。
「力が強いとか、ケンカに勝ちたいとかじゃなくて、自分自身の心が弱い事を知って、愕然としたんだ。」
「だから、君たちを見ていて、僕もあんな風に、強い心で立ち向かって行けるようになりたいって、思うように成ったんだ。」
遙は静かにうなずく。
「だから僕も剣道部に入れてくれないか。お願いします。」
平賀は自分の気持ちを遙に伝え、頭を下げた。
その態度は真剣だった。
「うん。やろう!一緒に剣道部!!」
遙は平賀に言う。
「よくぞ、言った平賀!」
又四郎が不意に現れた。
「一緒に剣術をやろう!」
又四郎は平賀の肩を抱く。
「自分の意思をきちんと口にして、強くなりたいと願い剣術をやる。それが本当の気持ちだ。」
「その気持ちさえあれば、平賀よ、剣術が強くなくとも強い人間には成れる。」
「小手先だけで剣を振るっても、人として敵に勝った事にはならん。」
又四郎の不意な登場に驚いた遙は、気を取り直して平賀に言った。
「うん。同好会一緒に頑張ろう。平賀君!」
2学期初日。
遙は、今までの剣道部員がみんな辞めて、諦め掛けていた剣道を続けると言う気持ちを、平賀は奮い立たせてくれた。
同好会でも何でも、又学校で剣道がやりたい。
しかも、本当に剣道をやりたいと思う仲間と一緒に。
そう遙は思っていた。