シークレットガール!【完】
「その呪文はなんだよ」
「呪文!?あたしの中の呪文はアルミ缶の上のあるミカンの上のアルミ缶の上のあるミカンの上のアルミ缶の上の、…」
「キモイ。さっさと行くぞ」
「えっ、ちょ!待ってよ。アントネット・スカーレット・スフィーヌ・ノア・ブリュッセルは!?」
「んな単語ない」
ブリュッセルって首都だろ、というつっこみも聞こえたがスルースルー。
「優季くん。アントネット・スカーレット・スフィーヌ・ノア・ブリュッセルを知らないのかね?」
「………………」
優季の冷凍ビームが緊急冷凍ビームになった。
これは、説明をしろと言うわけなのかね?
「アントネット・スカーレット・スフィーヌ・ノア・ブリュッセルとは、あたしの愛用マフラーのことです。ねぇブリュッセル」
手袋越しにでも分かるアントネット・スカーレット・スフィーヌ・ノア・ブリュッセルの温かさ。
「…………乗り遅れるから、先行くわ」
少しの沈黙のあとに彼は家を出ていってしまった。
「あ、やば」
取り残されたあたしも、マフ…アントネット・スカーレット・スフィーヌ・ノア・ブリュッセルを片手に家を出た。
鍵をかけて、マンションのエレベーターの“▽”のボタンを連打。
なんで、こんなときに限って来ないの!
「あぁ、もう!」
焦れったくて、あたしは初めてマンションの階段という悪魔の階段地獄へと駆け出した。