シークレットガール!【完】
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ピシャリ。扉が閉まる。
「春だなぁ………」
また外を眺めながら、同じことを呟いた。
「ずっと、寝てよっかなー。昨日なかなかハードだったしー」
よし、そうしよう。あたしは熊のごとく冬眠しよう。
と、決意した時、また扉が開いた。
そこにいた人物を見て、ちぇっと心の中でしたうちをした。
「美沙ちゃんは冬眠をするので、対応できませんので、お引き取り願います」
「あら。そうなの?じゃあ、無理矢理にでも起こしてあげなきゃ」
フフフ、と彼女は上品に笑う。
「鈴村さーん。そこは、お引き取りします、でしょー?もうもう、ほんと鈴村さんはギャグのセンスがナンセンス」
「その言葉、そっくり返すわよ。センスがナンセンスの方が寒いわよ」
彼女の塩対応には、もう慣れた。
なんちゃって美沙ちゃんだしね。なんちゃって天才的美沙ちゃんだからね。
彼女、通称ロボクールオバサン(37)は、あたしのギャグ発表時も丁寧に仕事をテキパキとこなしていた。
彼女に似ている人は?と聞かれたら、あたしは『ミタさんです』と即答するだろう。
三田さんとは、かなり前に流行ったドラマの家政婦さんである。
気付かなかったそこの貴方。
時代遅れッスね。流行に前衛的なあたしを見習いたまえ。
と優季に言ったら、
『黙れ。クソ時代遅れ』
と罵倒アルファーデコピンで返されたのは、記憶に新しい。
「鈴村さん」
「何?美沙ちゃん」
「それ。少し見直したいから、昼くらい相談に乗ってくれない?」
彼女は豆鉄砲を食らったような表情をしてから、赤に塗られた唇の端を緩やかに上げた。
「命乞い?」
毒舌だなオイ。
「まぁ、そんなトコですかね」
否定するにも事実だから素直に認めると、彼女は少し嬉しそうに目尻を垂らした。
「嬉しいわ」