シークレットガール!【完】
静かに走行する車は、駐車も静か。
車から降りると、少し強い風が吹く。
はらはらと舞う桜の花びら。
「桜、もう見れなくなっちゃうね」
「そうね。あと1週間くらいかしら」
桜の木をじっと見つめる。
汚いところを探そうと思っても、一向に見つからない。
桜はそういうものなのだ。
全てが綺麗で、汚いところを全て隠す。
それがさくらさんのようで、少し笑みが零れた。
「………ひとりでに笑うなんて、気持ち悪いわね。さっさと入るわよ。私は校長室で話をしてるから、やりたいことが終わったら、校長室に来てちょうだい」
「ん」
鈴村さんらしい雑なプランである。
来客用の玄関を通り抜けて、校舎の中に入る。
来客用の緑色のスリッパは、サイズが大きくて、すばすぱ脱げる。
「じゃあ、ばいばい。鈴村さん」
「えぇ。頑張ってちょうだい」
玄関の前で、お互いに正反対の方向に進んだはずだった。
「待って、美沙ちゃん」
振り向けば、彼女は綺麗な赤に塗られた唇を動かした。
「気付かなかった、…で済ますほど、バカじゃないわよね?」
「はっ?それどういう意味だし」
「そのまんまよ。自分自身分かってないと思うけど、美沙ちゃんって、あり得ないほど自己評価が低いの。そのくせ、他人の評価は気持ち悪いくらい高い」
意味わかんないし。
そもそも、気付かなかった、って何。
「…………よく分からないんですけど」
「…………………」
彼女はやれやれ、と言わんげに大きく深く溜め息をつく。
「………まぁ、後悔しないようにするべきね」
「そりゃしますよ」
「頑張ってちょうだいね」
何その投げやり感。
そして、このあたしが悪いみたいな空気。
あたしは無実だし。
「じゃあ、本当にばいばい」
再度、正反対の方向に進んだあたし達。
後ろを歩く彼女はコーヒーに溶ける砂糖のように呟いた。
あんなの、ただの呪いじゃない。