シークレットガール!【完】
シンと静まる保健室。
ふと、窓に目を移すと、桃色。
春と言えば?と言えば、はなの中じゃダントツ“桜”と答える人が多いだろう。
大きく穏やかさに、それでかつダイナミック。
あれほど、美しさと力強さを兼ね備えた花はそうそうない。
だから、春に咲く桜以外の花は可哀想だ。
どれだけ可憐に咲いても。
どれだけ凛々しく咲いても。
どれだけふんわりと咲いても。
どれだけ色鮮やかに咲いても。
桜に到底勝てっこない。
春とはそう言うものなのだ。
覆すなんて、フルーツポンチがカツカレーに変わるほどあり得ない。
それはこの世の条理であって常磐。
「センセ」
きっと、桜に地面のタンポポはきっと勝てない。
タンポポに目を向けてくれるのは、ただの同情か、あの飴色だけ。
はるるんも、志貴先輩も。きっと、桜を見上げてしまう。
「本当は、もう会わないつもりだったんです。けど、…っ」
彼は静かにあたしの言葉を待っていた。
「あたしは、…、もう一度だけ会いたかった。話さなくてもいいの。見るだけでいいの…っ。あたし一人じゃ、もう出来ないから」
結局、他人の力なしには動けない。
そんな自分が昔から大嫌い。
「手伝って…。お願い」
きゅっと、裾を掴む。
緊張で手汗を握っていた。
彼は、そんなあたしを見て、フッと笑みを浮かべる。
「お前のそんな表情初めて見たわ」
「……………、」
「それに免じて手伝ってやろーじゃねぇか」
彼は、意味深げにこちらを見て、さらに口角を上げたのだった。