シークレットガール!【完】
風が吹いて、下では桃色の雪が舞い散る。
「カナちゃんには、分からないじゃん」
あたしがどんな気持ちでここにいるのか、とか。
あたしがどんな気持ちで彼らと居たのか、とか。
あたしがどんな気持ちでここを去らなければいけない、とか。
「分からないのに、何でそんなこと言うの?なんで、そんな的を射るような事が分かるの?何でなのっ‼?あたしは、あたしはっ!──」
逆ギレ。
どうしようもない未来。それを遠くから達観しているカナちゃん。
その立場が酷く恨めしくて、羨望しているあたしがそこにいる。
「悲劇のヒロイン振るな、クソガキが」
彼のイラつきの声が鼓膜を震わせた。
「……………っ、」
「ばっかじゃねぇのかお前ら。橋本も橋本だし、朝霧も槻倉も」
なんで、ここで優季と志貴先輩とはるるんも出てくるの。
「倉條。俺は何でお前がこの学校に来たかは知らねぇよ」
流し目で睨む彼は迫力があって、喉がひゅっとなった。
「けど、来ちまって、1年過ごして、退学したんだろ?」
あたしは、それがどんな茨の道かを知っときながら、選んだ。
「お前。その1年に後悔してるのか?」
「……っ、」
あたしは大きくかぶりを振った。
「そうやって、思い出にすがんじゃねぇよクソガキが。普通にしろ、普通に」
少し恥ずかしくなったのか、彼はぽりぽり頭を雑に掻く。
「普通、って何」
よく分からない。“普通”って。
親も普通じゃなかった。
あたしも普通じゃなかった。
優季は普通だったのかな。
けど、今の優季は普通じゃないや。
あたしが“異常な世界”へと引き摺りこんでしまった。
結局、あたしはさくらさんと同じ。
自分のために、他人を犠牲にする。そんな人。
けれど。
大きく違うのは、さくらさんはそれに気付いていなくて、あたしは気付いてしまっていること。
「普通って何なの、センセ。教えてよ」
彼はふうっと紫煙を吐くような溜め息を出した。
「高校生らしく。難しく考えずに、真っ正面から」
「ははっ、…それバカな子じゃん」
「高校生はそんなんでいいんだよ。背伸びして、大人になんなくていいんだよ」
そっか、そうなんだ。
あたしは、難しく考えすぎたんだ。
単純にシンプルに容易に。
そう行動を起こせばよかったんだ。
今さら気付いても、もう少ししか時間はないけれど。
少しくらい、高校生らしく行動してみてもいいんじゃない?