シークレットガール!【完】
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いつの頃だっただろうか。
外を眺めるしか出来なくなったのは。
「入るわよ、美沙ちゃん」
「どうぞ」
入ってきたのは、鈴村さん。
真っ赤な唇に上品な雰囲気が印象的な大人の女性。
ナース服を着ている彼女は、無駄に色気を出している。
もうもう。だから、となりの部屋の田中さん(85)があたしに今時のラブレターの書き方を聞きにくるんだよ。
おじいちゃんまでたぶらかしてどうするの、ほんと。
「美沙ちゃん。薬飲んで貰える?」
「嫌って言っても無理矢理飲ませるじゃん」
「だって、そういう仕事だもの」
薬と水を差し出されて、仕方なく飲み込んだ。
「注射していいかしら」
「ほんっと、注射だけは勘弁して欲しいんだけど。注射?ちょっと待ってよ。なんで針を体にぶっ刺すの?なんで、謎の液体を体に入れるの?何?バットサイエンティストのマネ?他でしてよ。なんなのなんなの。ほんと、注射ってあり得ない。誰がこんなん生み出したの。生み出した奴、世界中の注射嫌いっ子に土下座して謝れ」
「言い残すことはそれだけかしら?」
「なんで、それが遺言になるの!」
怖い!鈴村さん怖い!鬼!
「鈴村さん、ハウス!」
「……頭に刺すわよ」
「それ、犯罪です」
「煩いわね。早く手出しなさい」
「うぅー、…鬼、鬼畜、性格破綻者、クソババァ、死ね、んでまた生き返って優しさを知って、非道、………痛い痛い痛い痛い痛いっ!」
「あと少しだから黙って。……はい、終わった」
「痛かった。ほんと、注射だけは嫌だ」
「はいはい。優季くんに慰めてもらってちょうだい」
「うん。そうする」
「優季くんの優しさに漬け込んで、お菓子を作らせちゃダメだからね」
「ゲッ、…エスパークソババァかよ」
これだから、ロボットさんは困った困った。
「お昼にまた来るわよ」
「来なくていいッス」
「じゃあ、またお昼に」
聞いちゃいねぇよこのオネエサン。