シークレットガール!【完】
「美沙ちゃん。一人漫才は一段落ついたかしら?もう行っていい?」
「一人漫才て、…………。あ、うん。どーぞ、行っちゃってください」
しっしっしっと彼女を手で払うと、睨まれたのは言うまでもない。
「優季、大丈夫?」
「大丈夫大丈夫」
いや、大丈夫じゃないでしょ。
「パイプ椅子あるんだし、座ったら?」
「元気だから要らないっての」
意地ですか。さいですか。
少し大人びている彼が小さい子のような意地を張ったのが少し可愛く見えたのは、彼が風邪のせいだ。
「鈴村さん、まだかなぁ」
「…………………」
無視‼?…え、もしかして、意識パストアウトしちゃってる感じ‼?
お目目ぱっちり開いてるけどパストアウトしちゃってる感じ‼?
「優季、死なないでっ」
起き上がって彼に抱きつくと、重力に逆らうことなく彼の体が前のめりに傾いて。
彼のお尻と床がごっつんこした。
「ごめんちょ、ごめんちょー」
「…………………」
あれ。もっと、顔が赤くなった気のせい……?
あ、あたしが重いのか重いのか。
クソッ顔に出てるよ学園の王子様よ。ここは冗談でも『蟻のように軽いよ』くらい言えや。
ゆっくり彼の体から離れた。そして、布団の中に戻る。
優季はというと、ふらふらーとパイプ椅子に座った。
本当に大丈夫なのだろうか、と不安を掻き立てられる。
安心させなきゃ。と思い、グッと親指を彼に向けて立てた。
「優季、安心してよ!優季に熱があったら、あたしが優季の合格発表見に行ってあげるからね!」
「遠慮しとく」
「えっ、なんで‼?あたし、ちゃんと優季の受験番号は49って覚えてるからね‼?ちゃんと見に行けるよ‼?」
「はぁ‼?なんで、受験番号知ってんだよ」
う、…っ。
「……いやぁ、入試の前日ここで優季がお昼寝してたから、ちょろっと優季のカバンをいじらせてもらいました。てへぺろ」
「変態」
「ごめんってー。悪意は……、うん。あったけどさー。優季の事は出来るだけいっぱい知りたかったもん」
「…………ッ」
彼は声だけを漏らして、ベットの脇に顔をうずくめた。
辛いのかな。頭痛いんだよね。大丈夫だよね。
あたしが落ち込んだときに彼がしてくれたように。
腕を伸ばして、彼の柔らか髪に触れた。
ビクッと彼の肩が揺れたが、あたしの手を払うことはなかった。
彼の頭をゆっくりとした動作で撫でると、どんなことを思ったのかは分からないけど、彼は吐息を溢した。
外を見れば、桜の蕾。
春の風が、早く咲けと言わんばかりに蕾を揺らしていた。