シークレットガール!【完】
橋本くん
小さな顔に、一重だけれど目は大きい。
自分でいうのもアレだけれど。
ぶっちゃけ、私は何だかんだでモテている分類の人だと思う。
ただし、特別そんなに綺麗というわけではない。
「あ。あれ、橋本君じゃない?」
放課後の中学校の校舎。とある教室から下を覗く。
あまり人の通らない花壇の前で、私の好きな人が知らない女の子と立っていた。
「橋本君、好きです……ッ。付き合って、くだしゃ、…っさいっ」
告白噛んじゃってる。緊張してるんだよね。
だって、彼は学校で恐らく人気が一番あるであろう王子様なのだから。
「あの子って、1年下の河野さんじゃない?可愛いって噂の」
「ふぅん」
私の友達はヒソヒソとどうでもいい情報をくれた。
確かに可愛いけど。そこまで、ピンと来ない。多分、私の方が上。
でも、私と橋本君が付き合ったとしても、ピンと来ない。
橋本君はそれほど、カッコよくて綺麗なのだ。
一応、モテてる私が言うのだから間違いはないでしょう?
数十秒後、予想通り河野さんは泣きながら、どこかへと走り去っていった。
「…………私、帰るわー」
ちょうど、未提出の数学のプリントが完成し、何もすることがない私は帰ることにした。
その前に職員室に寄って、北後先生に提出しなきゃ。
職員室に寄って、足を踏み出した。
途中、私は息を飲んだのを今でも覚えている。
静かな空気に、私が今だかつて聞いたことのない柔らかい彼の声。
その時は、ちょうど下駄箱の前だった。
「あぁ、そうだな。今度、二人で行こうな美沙」
柔らかな声。
いつもと違った口調。
愛しげに細まる飴色の瞳。
“美沙"。
それが彼の好きな人だろう。
初めて見る彼の表情。
私は、電話越しにいる“美沙"さんが羨ましいなぁと思った。
Fin.