シークレットガール!【完】
何これ。
このきゅっと締め付けられるような感じは。
胸が軋む音がして、それと同じように、ひゅっと喉の奥が鳴った気がした。
「先輩、優しくなりましたね」
「は?」
「だって、前までなら一人で帰れって言ってたのに」
「…そりゃ2ヶ月もストーカーされたら、情も入る」
何その理由。
「ありがとうございます、先輩」
「別に」
彼はあたしの事が好き、ということじゃない。
時々あたしといるときに懐かしそうに目を細めている。
彼にそんな表情をさせる人はただ一人。
綺麗な黒髪を靡かす、あの儚げな彼女。
───『私はもう長くはないの』
そう綺麗なソプラノ声で告げた、触れたら壊れそうなそんな儚げさを持つあの彼女。
ねぇさくらさん。
胸が締め付けられるの。すんごく苦しいの。
なんで、あたしはこんな思いをしているの?
「志貴先輩」
あたしがそう呼べば、振り返ってくれる彼。
その彼の耳にはサクラのピアス。
もう梅雨なのに、サクラ。
もういっそのこと紫陽花になっちゃえばいいのに。
「お言葉に甘えて、送ってください」
いつも彼に見している笑顔で、彼の方を向いた。
きちんと笑えているのだろうか。
否、目は笑えてない。