未知の世界
夕方の回診では、佐藤先生と早川先生が二人でやってきた。
何やら、深刻そうな顔。
検査の結果が良くなかったのかな、、、
佐藤先生が椅子に座り、私の前に。
「今日の検査結果なんだけど、
入院時よりも悪くなっている。
ピークフローの数値も低くなっている。
今朝の聴診でも肺の音が悪すぎる。
入院は長引きそうだ。」
やっぱり。
分かっていた。
だって自分で自分を苦しめるようなことをしてるんだから。
佐藤先生の話を聞いて、私はうつむいた。
入院が長引いても、何にも言えない。
「何か隠してることはないか?
これから、喘息と向かい合うためにも、先に話して欲しい。」
と言われたが、話せない。
絶対、話せる訳がない。
「じゃあ、俺から言おうかな。
今日屋上に行ってきた。」
私は顔を歪めた。
ばれたよ。
「小児科用の吸入器が拾われて、どこに落ちていたのか見に行ってきた。」
もう、ダメだ。
「吸入器の落ちていたタンクの側に、こんなものも見つけた。」
と出されたのは、ビニール袋に入った私のタバコ。
「これは?」
と言われ、
もう逃れられない。
言おう。
と思った瞬間、
ザッ
カーテンが勢いよく開いた。
そこには翔くんが立っていた。
胸を押さえて。立つのがやっとなのに。
「それ!俺のです。」
と突然、私が隠していたタバコを自分のだって言いはじめた。
「俺が友達の来たときに屋上へ行って、吸ったものです。」
と言いはじめた。
えっ、いや、それは私のものです。
と、声に出して言わないといけないのに、私って、最低だ。
「そうか、担当の先生にタバコは預けておくぞ。
未成年だからと言う訳だけではなく、体には相当悪いものだ。
絶対に辞めなさい。」
と佐藤先生が翔くんに言う。
でも、それ私のもの。
私は、翔くんに申し訳なくて、顔をあげれなかった。
そのあと、カーテンは閉められて、診察を受けた。
先生は私の胸の音を聞いてから、聴診器を外し、
「音が良くないな。だけど、このままいけば、勉強は問題なくできる。
食事が終わって、俺の勤務が終わったら、また来るから、それから勉強しよう。」
と佐藤先生に言われ、
「はい。」
とうつむいて返事をした。