未知の世界
翌朝、朝食や回診、吸入を終えると、翔くんに屋上に行かないかと誘われた。
翔くんはもうだいぶ良くなっていて、歩くこともできる。
二人で屋上に行くと、もう夏が近づいていた。
日差しは強く、空気はもんもんとしていた。
翔くんが持っていた上着を広げて、私と翔くんはくっつくように上着の日陰で歩いた。
そして、ベンチに座った。
「体調はどうだ?」
と翔くんに聞かれ、
「すっかり良くなってきたよ。
喘息の発作も出なくなってきたし、少し咳込んでも、自分で呼吸をコントロールできるようになってきた。
佐藤先生には、喘息の数値は良くなってるって、教えてもらったよ。」
と私が答えると、翔くんはとても嬉しそうな顔をした。
「ほんと、よかったな。
最初に俺達の病室に来たとき、すごく辛そうで、それでもって、誰も受け付けませんって顔してたから。
俺達、ヤバい奴が来ちゃったって、話してたんだ。」
「えっ!?ヤバい奴!?私?
ハハッ面白い。
そんな、誰も受け付けないような顔してたかなぁ?」
と私が答えると、翔くんは
「してた、してた。
幸(さち)薄そうな顔してたっ!」
と言った。
「幸薄いって(笑)どんなひどい顔なの(笑)」
楽しい。
久しぶりに心の底から笑った。
心がどんどん軽くなっていく。
「翔くんといると楽しいね。」
と何気なく言った言葉だったけど、翔くんはすごく顔を赤らめて、恥ずかしそうにしていた。
「あ、あのさ、、
これ。」
と出してきたのは、
「花火大会」
と書かれた広告。
この病院の近くの河川敷であるみたい。
「これ、、、
ここから、、、見てみない?」
と聞かれ、私は即答した。
「うんうん!見たい!」
すると翔くんは、
「ただ、佐藤先生の勉強会があると、、、
ここには来れないんだ。」
と残念そうに言う。
「佐藤先生が当直で、勉強会が無かったら、ここに来ようか?」
と、私にしては名案を思いついた。
花火大会なんて、行ったことがないから、ものすごく嬉しかった。
しかし、この軽はずみな私たちの計画が、後に大変な出来事となることを、この時はまだ、知る予知もなかった。