タカラモノ~小さな恋物語~
カランカラン…
入口のドアを開け、店内を見渡す。
暖房の暖かな空気が私の冷え切った全身を包み込む。
「あ、飛鳥さん…!」
奥の窓際に宇野さんはいた。
今日の仕事が忙しくて、本当によかったと思う。
お客さんも多くて、集中できたから時間もあっという間に経ってくれた。
暇だったら間違いなく災難だ。
長い間きっと憂鬱と戦わなくてはいけない。
「先ほどは、本当に失礼しました。改めて、宇野紗彩です。」
「百瀬飛鳥です。」
そう言って私は腰かける。
私が来て、立ち上がっていた宇野さんも座った。
「ホワイトモカください。」
お水を持ってきてくれたウエイターさんに言った。
座った途端にドッと疲れが押し寄せた気がした。
休憩したいところだが、明らかに何かが起きそうな予感。
「本当にすみません。ぶっ飛んだことをしているのは重々承知です。」
俯きながら宇野さんは言った。
「あ、いや、その…ケンのことで何か?」
「飛鳥さんは、健吾くんと仲が良いんですよね?」
「仲が良いって言われても…。悪くはないかなって思ってます。ケンが何か言っていましたか?」
宇野さんは首を横に振った。