タカラモノ~小さな恋物語~
本気の片思いって、辛すぎるよ。
でも、それ以上に、私の中では悲しみや切なさよりも、フツフツと怒りが沸いてきた。
なによ、なんなのよ。
ケンのバカ。
ギュッと手に力を込める。
「百瀬さん、大丈夫…?」
店長が心配そうに私の顔を覗き込む。
私はムスッとしていただろう自分の顔を、思い切り笑顔に変えて「はい、大丈夫です。」と高らかに言った。
「無理しないで?」
「え?」
店長はそっと私に言って、肩を小さくたたいた。
「今日、4時に上がっていいよ、百瀬さん。」
「え、でも…」
今日の夜は私と鈴音さんで閉める日。
「大丈夫、現実は百瀬さんが考えてるほど、厳しくないよ。
少し肩の力を抜いてごらん。
いつもの百瀬さんの笑顔で、ね?」
店長、突然何を言い出すのだろう?とは思うけど、店長はお見通しなんだね、私のこと。
きっと私が何を考えて、何を思っているのか。
意味深な発言だけれど、どこか繋がるような気がする。
ケンのこと、信じてもいいのかな…?
「でも、私、怖い…」
いつしか鈴音さんは近くにはいなくて、店長と2人きりだった。
きっとこれも大人な鈴音さんの配慮。
「ケンが何考えてるのか、分からないんです。いちいち自分の感情に振り回されて、もう最近は本当に苦しくて…。」
店長は優しく微笑んだ。