タカラモノ~小さな恋物語~
綺麗な茜色の空だった。
「ももてぃ~」
噴水の前のベンチに座っていると、遠くの方からケンが小走りに走って来たのが見えた。
サッカースタイルなのか、休日スタイルなのか、下はサッカーブランドのジャージにTシャツを着ていた。
ケンを見た瞬間、今まで我慢していたものが一気に爆発した。
「…っ」
私は駆け出し、そのままケンに抱き付いた。
「も、ももてぃ…?!」
明らかに驚いたケンの声。
当たり前だ、こんなこと突然すぎる。
でも、それでも、もう私は自分を止めることが出来なかった。
コントロールが出来なかった。
「っ…」
「ももてぃ…?泣いてんの?」
ケンに聞かれて気付く。
私…泣いている。
「ケンっ…」
私は小さく声を出す。
ケンは私の震える肩をそっと抱きしめてくれた。
そんなこと、ズルい…
嬉しいけど、期待もしてしまう。
何より悲しい。
「ばかっ…ケンのばかぁ…」
ケンは可笑しそうにクスッと笑うだけだった。
そんなケンの腕の中は、とっても温かい。
「お願い…」
私は、ケンの胸に顔をうずめて絞り出すように話す。
「辞めないで…」
「……。」
「一人にしないで…」
「……。」
「置いていかないで…」
「……。」