タカラモノ~小さな恋物語~
「百瀬さん、だよね?」
「え、あ、はい。」
仕事がひと段落し、カウンター内の掃除をしていると、新店長―――大村さんが話しかけてくれた。
「はぁ、ここのお店は、先週いたお店よりも大きくて置いてある商品もなんとなく違うから、なんだかまた別世界に来てしまった気分だよ。」
「へぇ、そうなんですか。お店の雰囲気とかも…ですか?」
「うん、ここの店舗はなんだか柔らかい雰囲気かな。別世界なんて言ったけれど、とても居心地はいい。働きやすそうだし、店長さんがいい人だからかな?」
「ふふふ、そう言ってもらえるとなんだか嬉しいです。」
お店のことも、店長のことも…
私が言うのはおこがましいけれど、すごく嬉しい。
気が付くと、大村さんもカウンター内の掃除を始めていてくれた。
「百瀬さんはここで働き始めてどのくらいなの?」
そう、ふと大村さんが聞いた。
「えっと…10ヶ月くらいですかね。」
「そっか、何がきっかけでここに?」
「もともと飲食店でバイトしていたんですけど…そこのオーナーがあまりいい人ではなかったというか。」
あぁ、嫌でも思い出す。
あのオーナー。
私は、シュクレ・メゾンで働く前に、大学の近くのファミレスでバイトをしていた。
ある日、オーナーが途中で替わった。
そのオーナーが従業員に何かとケチをつけたり、怒鳴ったり、とにかく人に当っていないと気が済まないような人だった。
だから、もうそれが億劫になってバイトを変えようと決めた。
「そうなんだ、理不尽なんだね。」