朋ちゃんと僕と、O中のみんな
それからの学校生活に、別段以前と違ったところところは無かった。
あのことは、僕と朋ちゃんだけが知っている事だ。
無論、コーズだって知らないこと。
僕は、このままにしておいた方がいい、と思ったが、
いつもの放課後、朋ちゃんが「ギター教えて」と
例の屋上へ続く階段のところへ来るので、だから
朋ちゃんと二人きりになる時間が多かった。
僕は、この頃どちらかと言うとロックに興味が移っていたから
朋ちゃんが好きな拓郎の曲、なんかを演奏するのが
ちょっとかったるくなってきていた。
でも、まあ、ギターを始める理由には.....
と、思ってふと、思いついた事があった。
半年くらい前、昼休みの校庭でラジオを耳にして
吉田拓郎の「落陽」を熱心に聞いていたコーズのこと、を。
僕は、ちょっと確かめてみたかった。
「朋ちゃんさ...」
なーに?と、屈託なく笑う朋ちゃんは、もう、
あの泣いてた彼女とは別人のようだった。
だから、思い出させるのは可哀想だと思ったので
「どーして、タクローが好きなんだ?」
朋ちゃんは、にこにこ笑いながら「だってステキだもん。なんか..」
かっこいい。
そう言って、にこにこ笑ってた。
どうやら、コーズが好きな拓郎だから、ってな理由じゃないらしいな。
僕は、なんとなくほっとした。
そういう理由でギターを習ってるんだったら、なんか悲しすぎる。
今でも忘れてないんだったら。
そう思った。
あんなサルみたいなコーズなんか、早く忘れろよ。
そう、心の中で呟いた。
こんな時の僕にとって、拓郎の曲を演奏するのはちょっとかったるかった。
いきなり僕は、ショッキング・ブルーの「ビーナス」の
イントロをかき鳴らした。
朋ちゃんは最初すこし、びっくりしたようだったが
進んで行く演奏を聞きながら、かっこいい、といってたので
僕もちょっと嬉しくなって、いつもよりちょっと大きな声で歌を歌った。