朋ちゃんと僕と、O中のみんな
「ジツはね....。」


屋上の、ペンキが剥げ掛けて赤錆色になっている手摺り掴んで
何故か横顔で、僕に朋ちゃんはこう言った。



好きな人がいるの。
ずっと前から。
でも、ワタシには.....


どうしていいかわかんない。




いつも明るい朋ちゃんは、黒い瞳を潤ませてそう言った。





....僕は、なんとなくヘンな気持ちだった。

それがどういう気持ちなのか、この頃の僕は良く判らなかったから
努めて明るく、話を続けた。



「誰?それ」





言いにくそうに、数分が流れた。

つばめだろうか、流線型の黒い小鳥がすーぅ、と
僕らの上を舞い、天へ駆けた。






.....野球部の野路くん。







その、朋ちゃんのコトバに僕は意外だな、と思った。
嫌だ、と思うよりも驚いたのだった。


この野路は、コーズ、と言う仇名で
男の友達は多かったが、女にはあまりモテナイ奴で
背は小さいし、なんだか小猿みたいな男のコだったから..


なんで?と言いそうになったが、それは堪えた。


彼女は本気みたい。

今にも振り出しそうな雨雲...そんな雰囲気の今日の朋ちゃんに
僕は焦った。そして

どうして僕に?と自問し、何とはなしに答えを出して



「そっかぁ、コーズが好きなんだ。うん、なんとかしよう。」


と、言うと、彼女はすこし、明るい顔色で僕を見た。



....そか。マジであいつがね...。



それにしても、コーイチにしても朋ちゃんにしても
何で僕をそういう役にしたがるのだろう?



この時はそう思ったが、後で、僕は
この頃の事をとてもなつかしく思い出す、そんな時が来るとは思いもしなかった。

それは、もう少し後のこと、になるのだが...。
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