MAHOU屋
庭にはヤマトのおじさんの車が停まっていた。
集荷にはいつも決まった人が来ている。
髪に少し白髪が混じっているから「おじさん」とチヒロは呼ぶのだけれど、口に出すとその人は「そんな歳に見える?」と肩を落とすので、心の中だけにしている。


チヒロは玄関ではなくアトリエから入って、おじさんの姿を確認する。
おじさんはハンディーターミナルという機械で、ぴっぴぴっぴ電子音を立てながら弄っている。
ショーケースに乗っかっている教科書くらいの大きさの箱が、全部で四つ。
それをおじさんに配達してもらうのだ。


「こんにちは」


レインさまに教えられた通り、頭を下げて挨拶をする。
おじさんは「相変わらず礼儀正しいね」とレインさまに微笑んだ。
やったのはチヒロなのに、どうしてレインさまを褒めるのかよくわからない。
そのあと少し雑談をしておじさんは帰って行った。


「今日は四つ焼いたの?」
「そうだよ」


レインさまはクッキー屋さんをしている。
けれどネット通販と呼ばれるものがほとんどで、依頼されて余った分をアトリエで少しだけ販売している。
今日は四箱だったから、四種類。
単純な計算だ。


「もうすぐ迎えの時間」


レインさまは鳩が出る古時計を見て呟くように言った。
かちこち大きな音を出すので、二階で寝ていると耳を澄まさなくても聞こえてくる。
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