MAHOU屋
とうさまは技術者だった。
子供が小さく出張をことごとく拒んでいたようだったけれど、どうしても一週間海外に行かなくてはならなくなった。
その期間とうさまの上司の家に預けられ、三日目くらいにとうさまの訃報が届いた。
テロに巻き込まれたのだそうだ。
とうさまの遺体は専用機に乗せられて戻ってきた。
真っ白でうつくしい彫刻が施された棺のなかで、とうさまが窮屈そうに寝かされていた。
その顔を見ているだけで体温がないことがわかって、触れなかった。
燃やされてから後悔した。
今尚チヒロは、とうさまのことで涙が出ない。


とうさまには親戚というものがほとんどいなかったようだ。
葬儀はチヒロたちを預かってくれた上司と、その会社の人があげてくれた。


葬儀が終わったあと自宅に移動し親権が話し合われた。
チヒロは存在がないもののように身体を小さくして部屋のすみで話を聞いた。
極力息もとめる。
呼吸の音を聞かれたら、全部の視線が自分に集中するような気がした。
時折投げられる視線は氷でできた包丁のようで、震えが止まらない。


どのくらい続くのだろう。


永遠と続きそうな錯覚を覚えはじめたとき、突然場違いな女性が現れた。
その女性は大きな旅行カバンを下げシャツとジーンズという身軽な格好で、チヒロが受けていた視線を代わってくれた。


『わたし、引き取るし』


忘れ物をしたかのような気軽さで、その女性が言った。
彼女は今まで海外で放浪の旅をしていて、今日たまたま実家に帰ってきた際に友人であるとうさまの訃報を聞いたのだそうだ。
あまりにも早い決断に、遠い親戚の人もご近所さんも、とうさまの会社の人も面食らっていた。


『丁度アトリエ、探してたんだ』


そう言って、チヒロとソラ、そして家ごとレインさまは引き取った。
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