MAHOU屋
お風呂に一人で入るようになったのは去年の冬休みくらいからだ。
その日はレインさまとソラと三人でアトリエにいて、今日のように近所のオバサンが買い物に来ていた。
そのとき、そのオバサンがレインさまの<子宮>と呼ばれるものがないことを話していた。


『もしかしたら本当は三柴さんと塩谷さんの間にできた子だから、引き取ったんじゃないかって思っていたの。そんなことはないはずなのにね。ごめんなさいね』


レインさまは学生のときに生死を彷徨う大きな交通事故に巻き込まれて、そのときに<子宮>と呼ばれるものがなくなってしまったのだということだった。
事故当時レインさまのかあさまが周りの人に嘆きまわっていて、ここら辺ではそのことを知らない人はいないらしかった。


その<子宮>と呼ばれるものがなんなのかわからなくて、デビルに聞いた。
こういう話はレインさまよりデビルのほうが聞きやすい。
最初はどうしてそれを訊くのか、珍しく難しい顔をしていたデビルだったけれど、オバサンのことを話すと『赤ちゃんが育つところだよ。にわとりの卵がおなかの中にあるカンジ。これがないと子供が産めないんだ』と丁寧に教えてくれた。
それはこの話題はレインさまにはするなという約束事のようで、チヒロは力強く頷いた。
けれど、実際レインさまの身体を縦に半分に割るような大きな傷跡を見ると、どうしても<子宮>がないことを思い出してしまう。
デビルとの約束を守るためにも、ひとりでお風呂に入ろうと決めたのだ。


今日もそのオバサンは、レインさまを傷つけるようなことを言って、帰ったのかもしれない。
レインさまの優しさは、周りの人に誤解されている。
チヒロはそれを解こうと思っても、大人に声が届かない。
それはたぶん、自分がまだ、子供だからだ。
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