MAHOU屋
レインさまはデビルが自分自身のことを「デビル」と呼ぶことをあまり快く思っていないみたいで、毎回同じように言う。
以前ソラがどうしてと聞いたとき、「シュンはおおかみだから」と言っていた。
それに関しての詳しい説明はレインさまからなかったけれど、チヒロがよく図書室から借りてくる本と同じ郵便屋さんのデビルは<おおかみ>だということなのだろうと勝手に想像する。
そんな嫌がるレインさまをよそに、デビルは「デビル」と呼ばれることが「カッコイイ」と気に入っていて、チヒロがぼそっと呟いたことが、今では当たり前になってしまった。


「チヒロー、いつもの!」


チヒロははいはいと言いながら、キッチンの冷蔵庫からサイダーを取り出す。
チヒロもソラもあまり炭酸が得意ではないから、庫内にある缶のサイダーはすべてデビルのためのものだ。
自分がいつでも飲めるように、定期的に補充している。
それを一本渡すと、仕事終わりでよっぽど喉が渇いたのか、ごくごくと喉を鳴らし一気に飲み干し、ぷはーと生ぬるい息を吐き出した。


「五臓六腑にしみわたるねぇい」


上機嫌のデビルとマイペースなレインさまの間にソラが割り込んで整列するように前ならえした。
そしてデビルと同じように「いつもの!」と言う。
チヒロはコップを持ってきてソラのぷくぷくした手に持たせると、そこにオレンジジュースを注いでいく。


「チヒロも何か飲む?」


レインさまが久しぶりに雑誌から目を離した。
チヒロが顔を横に振ると「そう」と一言だけ呟いて、視線を元に戻した。
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