MAHOU屋
鳩時計が五回鳴いたとき、砂利が啼いた。
庭は砂利が敷き詰められてあって、お客さんが来たことを教えてくる。
レインさまは「あとはよろしく」とこの場をデビルにまかせて、今日使った道具を裏庭に持っていった。
今日は「閉店だから」と来店を断らないようだ。
それはとっても珍しいこと。


「逃げたな」


デビルは片方の口角を上げて難しい顔をしながらも、レインさまの代わりに「いらっしゃいませ」とお客さんを迎える。
チヒロはソラの隣に腰を下ろしてデビルの店主振りを見守ることにする。


滑り込みのお客さんは、この店には珍しい男の人だった。
デビルの顔を見るとおやっとした顔をする。


「ナオユキのお兄さん?」


その男の人の背はレインさまと同じくらい。
女性としては大きいけれど、男性としては普通だろうってくらい。
髪と同じ真っ黒い大きな眼鏡をかけていて表情がわかりにくく、なで肩で猫背だから、どこか頼りなさそうに見える。


「俺のこと知ってんの?」
「は、はい。ナオユキくんの家に中学のときよく遊びに行っていたので」
「名前聞いていいか?」
「岩城タクマです!」


まるで敬礼するみたいに、岩城さん(と呼ぶことにしよう)が背筋を正した。
デビルは記憶の引き出しの中を探っているのか、腕組みをして唸っている。
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