MAHOU屋
「へいへい、これな」


デビルはズボンの後ろポケットから新緑色をした封筒をレインさまに差し出した。


「いつ、届いてた?」
「もちろん、満月じゃねえよ」


そうと受け取ったその封筒にあて先も、送り主の手がかりも、切手もなにもない。
それにはもちろんソラも気付いていて、なおかつそれ以上のことも指摘している。


「でびゆー、かってになかみみちゃだめだよー」


ソラはチヒロが驚くほどに、敏感に気付く。
デビルが以前「それが女ってもんだ、怖いだろ」と言っていたけれど本当だろうか。


「こういう手紙は特別なの。だって届けらんねえじゃん、中身見ないと」


それ以前にそういった手紙は配達されないんじゃないかとチヒロは思う。
チヒロも恥ずかしい話、ソラの真似をしてポストに手紙を投函したことがあるけれど、返事は届かないし、返送もされてこなかった。


「でびゆしゅごいねー。そらもぱぱからきたもんー。でも、いけないって、かいてあって、かなしかったー」


うつむいたソラの頭をレインさまが撫でに来た。
ぽんぽん、と元気付けるような仕草に、ソラは頬を少しだけピンク色に染めた。


「ちょっと書斎行ってくる。チヒロ、あとはよろしくね」


話し相手を失ったデビルはチヒロ相手に雑談し始めた。
チヒロはただ聞き流し、それはデビルがクッキーを食べ終わるまで続いていた。
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