MAHOU屋
「いいか、それはチヒロの分なんだかんな。落ち込んでるからって言って、ソラにあげるんじゃねーぞ」


帰ると言ったデビルは人差し指を天上に突き出すように立てて、ドアの外に消えていく。
後姿を見送ってソラをみると「けちー」と唇を尖らせていた。
釘を刺されてしまったのでしょうがなく、ソラのためにオレンジジュースを取ってきてやる。


デビルはこうして定期的に無記名の手紙を届けに来る。
その手紙が無事レインさまに渡ったときは普段昼間しか焼かないのに、決まってその日のうちに、しかも夜にクッキーを焼く。
その下準備に必ずばあさまの書斎に行って、レインさまは準備をする。


その書斎にほとんどチヒロは足を踏み入れない。
それはとうさまも同じで、その詳しい理由は亡くなったあと、デビルから聞いた。


身体の弱かったばあさまは、とうさまが小学六年生の頃に亡くなっているそうだ。
その葬儀の翌日から部屋のドアに×印のように板で封がされてしまったらしい。
デビルはとうさまとなんとか部屋に入ろうとしたことがあったみたいだけれど、じいさまにこっぴどく叱られてしまったらしい。


『チヒロのばーさんは魔女だかんな。まぁしょうがないわな』


絵本の「まじょのおかしやさん」に登場する「魔女」を思い浮かべて、けれども実際に存在しないことはわかっているつもりだから、その「魔女」は作者を現すんだろうなとデビルの話を聞きながら思った。
< 51 / 74 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop