MAHOU屋
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閉店時間を待たずに店を閉めて、レインさまは今日使った道具を裏庭に持っていった。
そうして水を張った金だらいに道具を沈めて、手の平にすっぽりおさまる小瓶から液を垂らす。
今日は<人口涙>の入っている透明な小瓶ではなく、青みががっているものだ。
そうして戻ってきたレインさまは手早く夕飯を作り、入浴する。
そしてレインさまの代わりに、チヒロがソラを寝かしつける。
ソラが寝入ったのを確認すると、足を忍ばせてチヒロはアトリエに向かった。


今日はチヒロが唯一夜更かしを許される日だ。
レインさまが夜にクッキーを焼く日だけ。


チヒロはとうさまの葬儀の日から近くに大人がいないと眠れない。


夜にほとんど電気をつける必要性がないためなのか、アトリエには間接照明しかない。
万華鏡の中にいるような淡い光の中で、レインさまは裏庭から持ってきた道具をもう一度水洗いして拭いている。
その様子をショーケースの外から身を乗り出してチヒロは見ている。


レインさまは作業をはじめる前に、必ずボールにハーブを浮かべて、その中で手を洗う。
そのハーブは作るクッキーごとに変えていて、今日は「ステビア」だと言っていた。
そのステビアも裏庭で育てている(というよりほったらかしている感じだけれど)。


ステビアはどんな効果があるのだろう。
作業を始めてしまったレインさまに声がかけられない。
かけたとしても、終わるまで一斉レインさまは喋らないから同じことだ。
聞かなくても作業台に置かれている材料で今日は<バニラクッキー>だということはわかる。
小麦粉、全粒粉、無塩バター、砂糖、スキムミルク、バニラビーンズ。


まずボールを用意する。
その中で砂糖にバニラビーンズを揉みだしながら馴染ませる。
そこへバターを入れてゴムベラでよく混ぜ合わせ、粉類(小麦粉・全粒粉・スキムミルク)を何回かにわけてまぜる。
まとまったら麺棒で伸ばして、その生地を型抜きしていく。
今日は花型を使うようだった。
それを一七〇度のオーブンで焼いていく。
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