MAHOU屋
「ソラが出した手紙の内容、覚えてるか?」


チヒロは黙って頷く。


「『パパへ にゅうえんしきに きてください』って、書いてあった」


デビルが「これ、何て読むかわかるか?」と訊いてきたのが最初だったと思う。
字と辛うじて判別できるような汚いひらがな。
暗号のように解いて答えがわかると、心の中にぽっかり穴があいたようで悲しくなった。


「そのとき、言ったと思うけど、俺は死んだ人に、手紙は届けられないんだ」


まずデビルにしっかり注意を受けた。
ポストに投函する手紙は、最低でも宛先宛名をきちんと書けと。
切手を貼るのはマナーだけれど、貼っていなかった場合はその宛先人から料金を払ってもらえば届く場合もあると教えてくれた。
それを三歳児にわかれというのは難しいから、徐々にで良い、お前からも教えておけと言われた。
そのあとデビルはとうさまの代わりに手紙の返事を書いてくれて、普通の郵便物として素知らぬ顔で配達してくれていた。


「中身、見た?」


デビルは短く「おう」と返事をした。


チヒロは手紙の内容を思い出す。
ひとことだけしか、書いていない。



今のままが良いです



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