デスサイズ
「洋介くん、明日も来るって。あと……“腕が無くても諦めるな。僕だって乗り越えられたんだから、君にも出来る”……って、伝えてって」
無責任な洋介の励ましに、有理のはらわたが煮え切る感覚がした。
「ねえ有理。そんなに落ち込まないで……どうしても画家になりたいなら、洋介くんみたいに足を使うとか…」
「黙れよクソババア!!!!」
勢いをつけて上半身を起こし、怒りを露に母親を睨みつける。
「俺とアイツは違うんだ!! アイツは才能に恵まれた天才だから、足なんかでも描けるんだ!! 所詮、才能で劣る俺には無理なんだよ!!!!」
言いたいことを言い切った有理の息があがり、暴言を吐かれた母親は震えて涙を流す。
「……ごめんママ。ムシャクシャして…外の空気が吸いたいから、屋上まで連れてってよ」
突然しおらしくなった息子に、母親は「いいのよ」とだけ呟いて、共に屋上に向かった。
そして現在
「1人になりたい」と言って母親を屋上から追い出し、有理は空を見上げていた。
「……俺って…何だったんだろう」
幼い頃から“天才”と呼ばれ、挫折を知らずに育った有理。
プライドが高く、精神的に脆い一面があった彼はライバルの出現に挫折し、狂った。
“天才”
そう呼ばれることが自分の全てだったのに、今では、もう絵を描くことが出来ない。
ライバルを潰して、自分が1番になることも出来ない。
―こんなんで、生きている意味なんてあるのか?
「無いんじゃないか」
心の声を見透かされたように聞こえた声に、有理が振り向く。
そこにいたのは、血のように赤い瞳をした茶髪の青年だった。
「天才じゃない君に生きている価値なんてない」
悪魔のように口角を吊り上げながら、青年がにじりよる。
「夢を失った君に生きている価値なんてない」
青年の言葉を聞く度に、有理の心が冷え込んでいく。
いつの間にか有理の目の前にいた青年が、ニッコリと笑った。
「僕が手伝ってあげるよ」