デスサイズ


「お前が動物を殺したのは3度目だ」
「だ、から、ど…した…」

感情の欠片も感じられない黒斗の言葉に、林は意味が解らないという表情を浮かべる。

「お前はやりすぎた。犯した罪に対する罰を受けてもらう」

その言葉を聞いて、林は身体の芯から冷えていく感覚がした。


グシイィッ


「ギアアァァッ!!」

足を退けられると同時に、今度は右肩から袈裟懸(けさが)けに切り裂かれる。

「ヒッ、フッ、フゥッ……」

身体中を襲う痛みに、林は身を捩(よじ)らせる。

己の身体を見てみると、全身が血で赤く染まっていて、床には大きな血だまりがあり、どんどん広がっていた。

出血は既に致死量に達している筈なのに、意識は依然とハッキリしていて、激痛も続いている。



「だ、誰に、頼まれた? どう、せ、頼まれたんだろ? 言えよ!! ペットの飼い主か? 従業員かっ!? …まさか、千加子か…!?」

喚く林の言葉に黒斗はゆるゆると首を振る。

「誰にも頼まれていない。言っただろう、犯した罪に対する罰を受けてもらう、と。これは、お前への罰だ」

それを聞いた林は、怒りを露に黒斗を鋭い眼光で睨みつけた。




「何が罰だっ!! 何で俺が!! たかが畜生を殺したぐらいで、殺されなきゃなんねえんだ!!!! ふざけんじゃねえぞクソガキ!!」

痛む身体を叱咤し、林はゆっくりと立ち上がり、フラフラと机の上の包丁を手に取り黒斗に向けた。

理不尽への怒り、生への執着、殺されてたまるかという強い意思。
それだけが、満身創痍の林を突き動かしていた。


じりじり、と黒斗ににじりよっていく。


「いつも、いつも俺ばかり責められる!! 誰も俺の気持ちを分かってくれやしない!!」
「じゃあ、お前はペットを殺された飼い主の気持ちが分かるのか?」

思わぬ言葉に、林は足を止めた。

「んなもの…分かるかよ!!」
「従業員や妻が離れていった理由は?」
「知らねえよ!! 所詮アイツらのワガママだ!!」

呆れたような溜め息を吐く黒斗。

「自分の気持ちばかりを押しつけるからだ」

大きく目を見開く林。



「相手の気持ちを分かろうとしない、自分の気持ちを分かってもらう努力もしない。押しつけることしかせず、人の話を聞こうともしない」


林の脳裏に、過去のフラッシュバックが映る。
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