シルビア



「ったく……不誠実な男に捕まってもいいことないんだから。もうちょっと警戒心持ちなよ」

「……悪かったわね」



一応心配してくれているのか、いい歳なのにと呆れているのか。分からないけれど、その言われ方はすこし癪だ。



……なによ。こっちの気持ちも知らないで。

だって、進まなきゃいけない。こうでもしなきゃ進めない。

弱くてバカな私は、こうでもしなきゃ。



「別に誠実じゃなくてもいい。……あんたのこと、忘れられるなら」



こうでもしなきゃ、忘れられないから。

いつまでも絡みつく、少し冷たいその体温と、撫でるような優しい感触。



忘れたい、忘れなきゃ。

そう願う一番奥には、忘れたくない、忘れられないという願いが沈んでいる。



「……まだ、忘れてくれてなかったんだ?」



小さくつぶやかれたその一言に、こちらに向けられるのは、切なげな微笑み。

その表情に心はまた激しく揺さぶられ、実感する想いに泣き出しそうになるから、逃げるように視線を逸らして俯いた。



「……うるさい、こっち見ないで、」



見ないで。

かっこ悪い、情けない、未練たらしい私なんて、見ないでよ。

忘れてくれてなかったんだ、なんて、わざと優しいような言い方しないで。



「バカみたいって思ってるんでしょ?未練たらしくて……かっこ悪い、ダメな女って、思ってるんでしょ?」



たったひとりの男をいつまでも忘れられないなんて。

自分から突き放したくせに、いつまでも引きずっているなんて。

かっこ悪い、バカみたい、そう思うでしょ。私だって、思う。



だから、こんな私見ないで。

今すぐ立ち去って、冷たくして、ただの他人になって、忘れさせるきっかけをちょうだい。



そう、悲鳴にも似た、願い。

そんな私に、望は伸ばした腕でぎゅっと体を抱き締めると、なだめるようにぽんぽんと頭を撫でる。



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